病弱児、地域で育てる 専門保育園など広がる支援
看護師を配置 保育士のケア研修などの取り組みも
医療技術の進歩に伴い先天性の大きな疾患などがある新生児でも命を救えるようになった。その一方で助かったものの非常に虚弱であったり、呼吸器の装着が必要だったりする子供が増えている。こうした子供たちへの対応は病院内の問題とされ、家で生活していくための支援体制がなかったが、ようやく社会全体で支えていこうとの機運が高まりつつある。
2018年春、横浜市南区に1~2歳児を対象として定員12人でオープンする予定の「すもーるすてっぷ保育園」。小児科の経験が長い看護師が常駐し、病弱だったり心臓疾患などの内部障害を抱えたりする子供も預かることが特長だ。
さらに病弱な子供らが転園したり、小学校に入学したりする際には看護師や保育士を付き添わせる派遣サービスも計画している。
運営はNPO法人スモールステップ。代表の赤荻聡子さん(37)は先天性の心臓疾患がある娘(5)の母親でもある。娘は1歳半までに6回もの手術に耐えたが、一時的な血流不足で脳が損傷を受けた。体にまひが残り、発達も少し遅れる。酸素の吸入も必要だ。
それでも心臓病の子供が集う場に通ううち、赤荻さんは「この子は普通の保育園でも大丈夫」と感じ始める。集団生活で社会性を身に付けさせたかったし、自らも再び働きたかった。そこで地域の保育園に問い合わせたが、どこも「何かあったら責任が取れない」と尻込み。絶望的な気持ちになることもあった。
やっと離れた場所に受け入れ先が見つかり、娘はいま楽しそうだ。赤荻さんは「病児を地域で受け入れる環境づくりの一つとして保育園をつくることにした。同じような境遇の人にあきらめないでと伝えたい」と話す。
政府も動く。厚生労働省は18年度から保育園などが医療的配慮が必要な子供を預かりやすいよう、看護師を配置したり、保育士に医療行為の研修を受けさせたりするモデル事業を始める。
さらに障害児の通所施設でもこのような子供を受け入れやすくするため、看護師を置いた場合に施設が受け取る報酬が増えるようにする。
全国に先駆け、障害がある子供や医療的な処置が必要な子供を専門に受け入れる保育園がある。認定NPO法人フローレンスが14年から東京都内5カ所で順次開設してきた「ヘレン」だ。
ここも「受け入れてくれる保育園がない」という母親の訴えが開設のきっかけだ。ただヘレンの定員は合計で約50人。まだまだ数は足りない。フローレンスの森下倫朗マネージャーは「政府が力を入れ始めたことで、さらに増える可能性は十分ある」と話す。
ヘレンに5歳の娘を通わせる小川亜矢子さん(43)は「娘はしゃべれないが、ここに通うようになって表情がとても豊かになった」とほほ笑む。でも「小学校でちゃんと受け入れてもらえるかどうか」など今後の心配は尽きない。医療、福祉、教育なども連携した地域で支える仕組みづくりはこれからだ。
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一見分からぬ症状 家族は疲弊
未熟児や先天性疾患がある新生児の救命後の状態は様々だ。歩けない、しゃべれないという重症の場合もあれば、歩けて話せるが常に呼吸器などの医療的処置を必要とすることもある。見た目は健常だが虚弱で階段を上るのも難しい子もいる。
福祉制度の対象は全面的に介助が必要な重症心身障害児だけ。今やっと呼吸器などをつけて生活する子供への支援が始まる。このような「医療的ケア児」は約1万7千人いるとされる。一方、見た目は健常児という子供は人数すら分かっていない。
一見普通の子供だが先天性の心臓疾患がある娘(9)の母親(38)は大きなストレスで「吐き気や微熱が収まらない」という。娘の体調管理や小学校での付き添い、弟の世話などで「座る暇すらない」からだ。重症の子ばかりでなく、広く社会的な支援を届けないと崩壊する家庭が続出しかねない。
小児在宅医療が専門の前田浩利・医療法人財団はるたか会理事長は「子供を地域で支える体制が必要」と指摘している。
(山口聡)
[日本経済新聞夕刊2018年1月17日付]
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