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『はじめてのおもてなし』 難民受け入れ 笑いで迫る

2018/1/12付 日本経済新聞 夕刊

ドイツのメルケル首相は2015年に難民受け入れ政策を打ち出し、国際世論の喝采を浴びたが、17年の連邦議会選挙で敗北した。そのドイツで16年に400万人が見て、同国映画の興行収入1位となった喜劇だ。ミュンヘン郊外の家族が自宅に難民を受け入れて起こるてんやわんや。極右でも極左でもない、普通のドイツ人の感覚を知るには格好の映画かもしれない。

美しい庭のある家に住むハートマン家。教職を退いた妻は社会活動に目覚め、難民の受け入れを決意する。外科医の夫は引退を拒み、プチ整形に余念がない。長男はバツイチの弁護士で上海の重要案件が進行中。その息子はゲームとヒップホップに夢中。長女は自分探し中の30代の学生で、ストーカーに追われている。

いかにも類型的だが、どの先進国にもいそうな今風の登場人物だ。リベラルな妻と保守的な夫の小言と愚痴がおかしい。妻の提案に夫は反対するが、翌朝には2人で難民施設を訪れる。はやる夫妻に職員は「動物保護施設じゃないんです」。そんな皮肉が効いている。

ナイジェリア難民のディアロも一見普通の青年だ。難民施設で「その髪じゃ就職できない」と言われ、美容院に行く。原理主義者とそりが合わない。ハートマン家でも夫妻の不仲を憂い、長女の結婚相手を探し、夫や親への敬意を説く。親切で純朴でお節介。ただ自身の過去には口をつぐむ。

勤務先で差別主義を批判された夫が「難民を受け入れた」とドヤ顔で開き直る場面をはじめ、本音と建前の開きを鋭く突いて笑わせる。家族の騒動は近所や友人を巻き込み、左右の活動家たちも集ってくる……。

「ドイツ人は自由で寛容」という理念の尊さと現実とのギャップ。その深刻さを笑いのめし、迷えるドイツの実相に迫る。それは迷える先進諸国の戯画でもある。サイモン・バーホーベン監督。1時間56分。

★★★

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2018年1月12日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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