老人ホーム、体験入居でチェックすべきポイントは？

有料老人ホームへの入居を前に、体験入居を検討する人は多いだろう。入居者本人や家族にとって最終確認をする大事な機会だ。長く生活し介護や身の回りのサービスを受ける場の何をチェックするとよいか、経験者らに聞いた。

「母の体験入居時のスタッフの対応を見て安心した」と話すのは東京都の会社員のAさん（60）。母親（87）は2017年9月、6泊7日の体験入居を経て東京都調布市の介護付き有料老人ホーム「まどか深大寺」に入所した。

Aさんは4年前から、往復2時間の新幹線通勤をしながら実家で母親を介護していた。17年春、母親に認知症の症状が出始めたのを契機に、東京の自宅近くでホーム探しを始めた。「見学した6カ所から選んでみたものの、母が慣れるかどうか不安だった」

体験入居の初日、ホームのスタッフらは足が不自由な母親に配慮し、ベッドを部屋の奥からトイレ近くに移動。面会に行くと「夕べはベッド下のセンサーマットが2回鳴りました」「下着を上げられないと呼んでくれましたよ」と声を掛けてくれた。食事の時間に他の入居者に会ったり、母親が会話したりする姿を見て安堵。契約を結んだ。

体験入居は通常、申し込みや自宅での面談、生活プラン作成などの後、契約の直前に設定される。まどか深大寺はほぼ全員に体験入居してもらうという。「環境変化で夜眠れずに声を荒らげる人もいる。一時的な反応かどうかを見極め、必要に応じてスタッフの巡回を増やすなど、受け入れ前に体制を整えることができる」（石橋誠ホーム長）

数時間の見学でも入居生活の一端を知ることは可能だが「体験入居ではより多くのことを具体的に確認できる」と老人ホームの紹介を手掛けるウィルホームコンサルプラザ（東京・新宿）主任相談員の雲井暁さんは話す。

宿泊を伴う体験入居の利点は、数日かけて1日の流れを体感できることだ。特に入浴や排せつ、人数が減る夜のスタッフの体制を確認できるのは大きい。

介護付き有料老人ホームグレースメイト練馬桜台（東京・練馬）は6泊7日の体験入居を勧める。「1泊2日だと緊張したままで終わる。日数を重ねると、普段の感覚で見極めができる」と手嶋恵美子施設長。

週2回の入浴が体験できるほか、交代勤務のスタッフに会う機会も増える。実際にコールを鳴らしてスタッフが駆けつける経験を通して「安全や安心感を得てほしい」（手嶋施設長）。

　入居予定者の家族がホームを信頼できるかどうかも重要だ。例えば「夕方に毛布を届ける」と事前に連絡したのに、受付で「どうされましたか？」と問われたらどう思うか。職員の情報共有が不十分など「少しでも不安を感じたら、契約しなければよい」と雲井さん。

終活の一環でホームの宿泊体験を重ねる人も。12月19日、1泊2日でサン・ラポール南房総（千葉県君津市）に来たのは70代の女性4人組。73歳女性は2回目の滞在で「少し安いランクの部屋を確かめたい」。3回目という79歳女性は「8割ぐらい心を決めたが、浴室との寒暖差が気になって。次回は花粉の時期に」。

終活協議会（東京・豊島）の竹内義彦さんは「何年も暮らすと日々のささやかなことが大事になる。気になる施設で元気なうちに体験入居を試してみては」と助言する。

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有料老人ホームに支払う費用には、入居一時金と月額費用がある。入居後一定期間の費用を事前にまとめて支払う入居一時金は、ゼロから数千万円まで幅広い。月額費用は家賃や水道費、光熱費などだ。

「入居前に支払ったお金が戻ってこない」といった返還金トラブルを受け、老人福祉法を改正。2012年4月から有料老人ホームの退去に伴う入居一時金の返還にクーリングオフ制度が導入された。「90日ルール」と呼ばれ、入居後3カ月以内に退去や契約解除をする場合に適用される。

施設は前払い金から家賃など入居中の実費を差し引き、残りを全額返還する。入居者の入院や施設になじめないなど、退去理由は問わない。原状回復費や居室のクリーニング代など、クーリングオフの対象範囲は都道府県や施設により異なる。契約前に確認しよう。

（畑中麻里）

［日本経済新聞夕刊2018年1月10日付］