二軸歩行、疲労感少なく 「和の動作」で年始めの一歩
腕は振らずに足裏で着地
新年の始めには、改めて体を見つめ直したいものだ。今回は疲労感が少なく、体に優しい歩き方を紹介する。実は効率的な「和」の動作を取り入れて、年始めの一歩を軽快に踏み出そう。
年の初めを着物姿で過ごした人もいるだろう。和装で歩こうとすると、洋服を着て靴を履いた時の歩き方ではしっくりこないはずだ。
和の動作で前に進むときは、踏み出した方の足の裏全体で着地して足を運ぶ。両手はももに添えたままで、腕を大きく振ることはしない。能や茶道など、日本の伝統文化における「すり足」を思い浮かべてほしい。
この和の歩き方が実は、効率的で疲労感が少なく、安全で体に優しいことをご存じだろうか。全身の動きを見ると、足を踏み出して着地するとき、同じ側の骨盤が足と一緒に前方へ動いて、体を推し進めているのが分かる。
右肩から右足まで、左肩から左足までがそれぞれ1本の軸を成す(写真上段右参照)。前に進むときは、この左右2本の軸が交互に動いていく。骨盤と肩をねじらず、体には無理な力が掛からない。体の最低限の部位だけ動かして効率良く前進できる。
この歩き方「二軸歩行」は体の上下動が小さいため、腰椎にかかる負担も少ない。江戸時代、飛脚や忍者はこのような効率的な歩行法で長距離を速く移動していたという。
二軸歩行は簡単に体得できる。両手の中指と人さし指、薬指をももの前に添える。ひざはピンと伸ばさずに少し緩めて、腰をやや落とした姿勢をとる。指がももからずれないようにして、まずはその場で軽く足踏みする。
慣れてきたら、指をももに添えたまま重心を前にかけて、上体をやや前傾するようにして体を前に進める。地面に引いた2本の線の上をなぞるイメージで進んでみよう。
一般的に、健康増進やエネルギー消費を増やすといった観点で推奨されるのは「腕を振り、かかとから着地する」歩き方だ。「エクササイズウオーク」とも呼ばれる。胸を張って腕を振りさっそうと歩く姿は、格好良く見える。歩幅が広いため速く進める。
ただしこの歩き方は注意が必要だ。衝撃による体への負荷はその1つ。踏み出した足のかかとが着地する時の衝撃が腰椎に伝わる。腹筋や背筋が弱い、姿勢が悪いと影響は大きくなる。この方法で長い距離を歩く人に腰痛で悩む人が多い。雪道や凍った道だと、かかとからの着地は転倒しやすいという欠点もある。
エクササイズウオークでは右腕と左脚、左腕と右脚を交互に振り出しながら前進する。和の歩き方とは異なり、身体の中心を1本の軸にして骨盤と肩が反対方向に動いてねじれを起こし、反転させながら進む。力強く地面を蹴り、腕を振って大きく身体を動かすためエネルギー消費は大きいが、動作の効率は低い。
意図的にエネルギー消費を高めたり、体に負担のかからない歩き方を選んだり――歩行は何気ない日常の動作だが、目的に応じて歩き方を変えることをお勧めしたい。
(早稲田大学スポーツ科学学術院 荒木邦子)
[NIKKEIプラス1 2018年1月6日付]
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