大川村の誇り はちきん地鶏、歯応え良く脂さっぱり
高知県北部の山あいにある大川村で2017年11月、毎年恒例の「謝肉祭」が開催された。標高約800メートルの広場を会場に約1500人の参加者がバーベキューを楽しんだ。来場者のお目当ては大川黒牛と土佐はちきん地鶏。東京都から訪れた40代の女性は「はちきん地鶏は歯応えがよくて脂もさっぱり。どんどん食べられる」と笑顔だ。
大川村は昨年、議会に代わって住民全員が集まって議案を直接審議する「村総会」の設置問題で全国の注目を集めた。人口約400人の小さな村だ。銅鉱山の閉山などで人口が減る中、活路としてかけているのが畜産だ。はちきん地鶏が10年ほど前に県の畜産試験場で開発された時、いち早く生産に手をあげた。
緑に囲まれた山間部は自然に恵まれている一方、困難も多かった。冬にはセ氏零下10度まで下がることがあり、卵を産まなくなる種鶏もいる。予算が十分ではない中、ふ化用の巣箱やヒナの囲いに地元産の木材を使って手作りするなど工夫して、飼育環境を整えてきた。
村自慢のはちきん地鶏は、高知市中心部でも食べられる。季節料理居酒屋かとうは、同地鶏のメニュー約10種類を提供。定番のもも焼きで地鶏らしいうまみ、むね肉のしゃぶしゃぶでは肉の甘みも感じられる。タタキや握りずしも臭いが少ない。「高知では鶏肉の生食は一般的ではないが、はちきんはリピーターが多い」(加藤真伍代表、29)のもうなずける。
同地鶏を「適度な歯応えやクリアなうまみが持ち味」と表現するのは地産地消を掲げるレストラン、ス・ルラクセの山本巧シェフ(45)だ。高知県産の食材とのマッチングを堪能できる。もも肉のローストとトマト、ナスのミルフィーユは、野菜との相性の良さが際立つ一品だ。
所変わって東京・中央の日本橋箱崎町。ダイニングレストラン、ビンチェでは2年ほど前から同地鶏を使う。オーブン焼きや塩からあげなど素材を生かした調理にこだわる。オーナーの水村郁代さん(53)は「素直な肉。まず食べてもらいおいしさを知ってほしい」とし、メニュー紹介のポスターでは「日本一小さい村」の食材として応援する。
大川村では近く、新しい食鳥処理施設が動き出す。課題だった衛生管理が大きく向上する。村内で卵のふ化から飼育、食肉加工まで一貫して手掛け、首都圏などで販路を広げるきっかけにする。和田知士村長(58)は「人口が少なくても元気な村のシンボルとして全国で味わってもらえるようにしたい」と意気込む。
高知県は計38種いる日本鶏のうち最多の8種を有する鶏王国だ。土佐はちきん地鶏は、同県原産の「土佐九斤(くきん)」と「大シャモ」をかけあわせた「クキンシャモ」の父親、「白色プリマスロック」の母親を交配させて生まれた。
はちきんとは土佐弁で快活で負けん気が強い女性のこと。県畜産試験場の山田博之チーフは「名前通り病気に強くて元気な自慢の鶏です」と話す。県内では室戸市や土佐清水市でも生産するが、県畜産振興課によると約8割は大川村で生産している。
(高知支局長 高田哲生)
[日本経済新聞夕刊2018年1月4日付]
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