『ビジランテ』 土地の呪縛 人間の悲しみ
暗い川面を小さな人影がわたっていく。3人の少年が逃げる。野太い声の父親が追う。怒りの形相の父親は三男、次男に追いつき、長男を組み伏せる。首を刺された父親は、捕まえた3兄弟を激しく殴りつけ、長男は家を飛び出す……。
入江悠監督が「SRサイタマノラッパー」シリーズ以来、久々に挑んだオリジナル作品だ。その冒頭から、引きのカメラが捉えた鮮烈な光景が展開する。
物語は30年後に飛ぶ。次男の二郎(鈴木浩介)は父の跡を継ぎ、市議になった。亡くなった父の墓の背後には、典型的な北関東の風景が広がる。延々と連なる鉄塔と送電線、なだらかな山並み、立ちこめる雲。
二郎は町の治安を守る自警団の代表も務める。三男の三郎(桐谷健太)は地回りのヤクザの下でデリヘルの店長をしている。父が残した土地は、市が誘致するアウトレットモールの建設予定地だ。そこへ突然、音信不通だった長男の一郎(大森南朋)が戻ってくる。
女連れで借金取りに追われる一郎だが、公正証書をたてに土地の相続を主張する。市議としての二郎の面子は丸つぶれだ。先輩市議は一郎に相続放棄を迫るためヤクザを使う。配下の三郎は窮地に立たされる。
さらにモール建設予定地に住む中国人たちと自警団との衝突が起こる。閉鎖的な地方都市の病根は根深い。若者たちもマイノリティーの排除に熱狂する。
しがらみに縛られ、暴力が支配し、希望が見えない地方都市。そこでもがく人間たちの姿を、3兄弟に仮託した神話的な物語だ。
入江作品の特色のロングショットが格段に効果を上げている。茫漠(ぼうばく)たる風景を大きく捉え、豆粒のような人物が動く。そんなショットから圧倒的な土地の呪縛力と人間の悲しみがそくそくと伝わる。終盤、夜のロードサイドの給油所の衝撃的な光景に鳥肌が立った。2時間5分。
★★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2017年12月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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