ドラえもん、現代美術に 村上隆ら昭和漫画から着想
藤子・F・不二雄と、つげ義春。昭和の著名な漫画家2人の作品を題材に、現代の美術家らが「アート」を制作する展覧会が開かれている。日本の漫画の影響力の大きさを感じさせる。
東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の「THEドラえもん展TOKYO2017」(来年1月8日まで)。村上隆、会田誠ら28組30人の現代アーティストが国民的キャラクターを題材に、絵画や立体作品を出品している。
子供時代に刺激
明るい場所の多い展覧会場の中にひとつ、薄暗い個室があった。壁一面にかかる「しずかちゃんの洞窟(へや)」は鴻池朋子の作品だ。牛革に水性クレヨンで、ドラえもんやのび太などを漂うように描いている。ひときわ目を引くのが、オオカミのような動物にくわえられている、しずかちゃんだ。
出展をきっかけに漫画「ドラえもん」を読み込んだという鴻池。「しずかちゃんの描き方にだけ作者の緊張感のような、不器用なところが見え隠れして面白いと思った」。今回の作品で「その不思議な緊張感を味わいたかった」と語る。
「ドラえもん」がアニメ化された1970年代、漫画もアニメも学術的には「美術」とは認められていなかった。ただ、子供時代からこれらに親しんできた現代のアーティストには、インスピレーションを受けた人も多い。
世界的に人気の美術家、村上隆もその一人だ。来館者を迎える横幅6メートルを超える大作「あんなこといいな 出来たらいいな」では主要キャラクターと共に、村上がよく使う花のモチーフを画面全体に描き込んだ。
ドラえもんの宣伝用アドバルーンから初期の作品を着想したこともあるという村上。漫画を戦後の日本が生み出した稀有(けう)な芸術ととらえている。
岡本光博の個展「THEドザえもん展TOKYO2017」(23日まで、東京・神楽坂のeitoeiko)はユニークだ。ドラえもんの背面を切り取ったようなオブジェなどを展示しているが、会場では「ある漫画から引用」としか説明していない。岡本は「コンテンツが著作権で厳格に管理されている現状を考えたかった」と話す。
つげ作品にも脚光
今年傘寿を迎えた漫画家、つげ義春のトリビュート展を開催しているのは、東京・表参道のビリケンギャラリーだ(10日まで)。1950年代にデビューしたつげは漫画雑誌「ガロ」を中心に作品を発表。クラゲに腕をかまれた男が放浪する「ねじ式」や、貧しい少年と少女の淡い恋を描いた「紅い花」などが知られ、シュールな作品世界には熱狂的なファンがいる。
今展はビリケンギャラリーが「ガロ」の後継雑誌「アックス」の版元である青林工芸舎と共同で企画した。漫画家三十数人がつげ作品に登場する人物や風景を抜き取り、イラストや立体作品を制作している。
つげ作品には、若手も影響を受けている。出品者の一人で20歳の漫画家、大山海は「つげさんの暗い背景やベタなタッチを参考にしている」と話す。展覧会にはつげの漫画の一場面に自分の作品の登場人物を組み合わせた絵を出品した。
同ギャラリーでは9月末~11月初旬にも漫画家の根本敬やしりあがり寿ら約60人によるつげのトリビュート展を開いた。来場者は普段の展覧会の約2倍で、つげ作品の根強い人気がうかがえたという。
(文化部 村上由樹)
[日本経済新聞夕刊2017年12月5日付]
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