日韓の俳優共演、演劇交流進む 互いに刺激する関係に
日本と韓国の演劇交流が盛んになっている。6日には両国の俳優が共演する舞台「ペール・ギュント」が東京で開幕。互いの文化を知り、刺激を与え合う関係が生まれつつあるようだ。
東京・世田谷パブリックシアターで上演される「ペール・ギュント」は、ノルウェーの劇作家イプセン原作の冒険物語。上演台本と演出を手掛けるヤン・ジョンウンは、来年2月の平昌冬季五輪で開・閉会式の総合演出を手掛ける韓国気鋭の演出家だ。
国境越え自分探し
「スタッフ皆が心を開いている稽古場で、国境を飛び越えた自分探しの物語にふさわしい」と語る主演の浦井健治をはじめ、日本人と韓国人が合わせて20人ほど出演する。ヤンの同作は2009年に韓国で初演。13年には東京でも披露された。今回の舞台は24日まで同シアターで、30、31日に兵庫県西宮市の県立芸術文化センターで上演される。
日韓演劇交流の歴史は1970年代まで遡る。軍事政権下で反体制を主張する韓国の演劇人に共鳴した日本人が韓国の戯曲を上演したり、金大中事件を題材にした舞台が作られたり。98年に韓国で日本文化流入に対する規制が緩められると、平田オリザの「東京ノート」や三谷幸喜の「笑(わらい)の大学」などがソウルで上演され、ヒットした。近年は野田秀樹や鄭義信らによる日韓共同制作の舞台が注目された。
政治の影響「ない」
「小劇場や個人の演劇人どうしで関係を深めてきたことがベースにある」と話すのは、日韓演劇交流センター会長で演劇評論家の大笹吉雄だ。同センターは2002年から、両国の戯曲を毎回5作朗読する公演を東京とソウルで1年おきに開いている。
日本からは唐十郎、松尾スズキ、前川知大らの作品がソウルで紹介されてきた。計100作まで継続する予定で、大笹は「こうした継続的な国際演劇交流は異例。観客は増えており、政治的影響を感じることはない」と話す。
昨年度の東アジア文化交流使として演劇制作に携わった演劇ユニット「てがみ座」主宰の長田育恵も、交流の新たな要だ。日本統治下の朝鮮半島を舞台にした柳宗悦の評伝劇で昨年初演した「SOETSU」が今年3月、ソウルの劇場で日韓のキャストにより朗読劇として上演された。長田は「当初は交流自体が目的の共同制作が多かったが、いまは互いに刺激を求める濃密な関係が確立している。今後は演劇教育の面でも協力したい」と話している。
◇ ◇ ◇
演出家ヤン・ジョンウン氏 人間としての共通部分を意識
――日本との距離感は変化したか。
「日本で韓流ブームがあり、韓国でも日本の映画やドラマ、Jポップやファッションなどが深く浸透している。壁は感じない。大規模なイベントは政治の影響を受けることもあるだろうが、小規模な交流が止まらないのは地理的な距離の近さが要因だと思う」
――これまで多くの国で共同制作を手掛けているが、日本の演劇の特徴は。
「能や狂言、歌舞伎といった伝統の上にあり、時間の蓄積を感じる。そして西洋演劇とうまく調和し、組織的で精巧で、繊細につくられている印象を受ける。長らく伝統芸能が軽んじられた時期があり、第2次大戦後に自由な発想で生命力の強い演劇が発展した韓国とは対照的だ」
――「ペール・ギュント」を共同制作する面白さは。
「言葉の壁はあるが、心は通じ合っていて、創造的な意見交換ができる。国境なく主人公が旅をする物語だし、人間としての共通部分を意識してつくっているので難しさは感じない。言葉や国の違いを認めて通じ合う過程が大切。この公演をきっかけに演劇交流の価値がさらに認められ、日韓だけでなく世界全体につながることを願っている」
(文化部 小山雄嗣)
[日本経済新聞夕刊2017年12月4日付]
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