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「ぶどう膜炎」失明減る 新薬承認後10年、抑制効果

2017/12/4付 日本経済新聞 朝刊

 眼球の内部で炎症を繰り返し起こし、視力の低下や失明の恐れがある「ぶどう膜炎」。様々な原因で起こるが、多くの治療に使える新薬が登場して症状を抑えられる患者が増えている。原因によっては対症療法にとどまり完治するわけではないが、早期に投薬すれば視力低下などを避けられる。充血などで見えづらい場合などには、早めの眼科受診を心がけたい。

ぶどう膜炎の症状の例。眼球内に炎症細胞が入り込み、濁りが見える(東京医科歯科大・鴨居講師提供)

 東京都に住む男性(31)は約4カ月前から左目の充血を繰り返していた。充血は自然に治まるのでしばらく放っておいたが、今回の充血はこれまでより強い。市販の目薬を使っても治らず、視界が曇って見える。視力の低下が心配になって近所の眼科を受診すると、眼球の中で炎症が起きていると説明を受けた。

 大学病院の専門医を受診すると、全身で炎症が起こる「ベーチェット病」によるぶどう膜炎と診断された。男性は約1年前から口内炎が頻繁にでき、頭皮にはにきびができることも多かった。ベーチェット病の代表的な症状が全身にでており、目の画像診断でも特徴的な形状の炎症が確認された。ステロイド薬や抗体医薬品「レミケード」(一般名インフリキシマブ)を使うと眼球内の炎症は治まった。だが、左目の矯正視力は0.1まで下がってしまった。

 「ぶどう膜」は黒目(瞳孔)の周りの色がついた部分である「虹彩」、目のピントを調節する「毛様体」、眼球の外側の強膜と内側の網膜の間にある「脈絡膜」の3つをまとめた総称だ。ぶどう膜炎はここに炎症が起きる。眼球の中で炎症が起こるため「内眼炎」と呼ぶこともある。

■充血やまぶしさ

 ぶどう膜炎になると、炎症反応の影響で充血したり、まぶしさや痛みを感じたりする。透明な眼球の中に炎症細胞が入り込み、霧がかかったように視界がぼやける「霧視」や、蚊が飛んでいるように視界に影がちらつく「飛蚊(ひぶん)症」のほか、角膜の内側に炎症細胞がたまる蓄膿(ちくのう)を起こすこともある。

 網膜は光を感知する役割をしており、その感度が悪くなるなどして視力が低下し、治療が遅れれば失明の恐れもある。炎症は両目で起こるとは限らず、片方や交互にも起こる。東京大学の蕪城俊克准教授は「大きな発作を起こす前の軽症なうちに治療できれば、視力低下を避けられる可能性が高まる」と強調する。

 ぶどう膜炎は様々な原因で発症する。難病の「べーチェット病」や「サルコイドーシス」、自己免疫疾患の「フォークト・小柳・原田病」が三大ぶどう膜炎と呼ばれて患者数が多い。

 ベーチェット病は全身の皮膚や粘膜に炎症を繰り返す原因不明の病気だ。これによるぶどう膜炎は特に激しい。かつては最も患者が多かったが、近年は減少傾向にあるという。皮膚などの全身に腫れ物ができるサルコイドーシスと原田病は相対的に患者数の比率が高まっている。

 これらの治療は抗体医薬品の登場で大きく変わった。「レミケード」が2007年にぶどう膜炎の薬として厚生労働省に承認された。過剰に働くと炎症性の自己免疫疾患になると考えられているたんぱく質の働きを抑える。

 それまでの治療はステロイド薬や免疫抑制薬などが一般的だった。30~40年前まで、ベーチェット病のぶどう膜炎によって失明する患者は半数から8割にも上った。それが新薬により07年には2割程度まで減少。その後はさらに減ったとみられている。

■皮下注射薬も承認

 16年には「ヒュミラ」(一般名アダリムマブ)が三大ぶどう膜炎を含む非感染性ぶどう膜炎の薬として承認された。点滴で投与するレミケードに対し、ヒュミラは患者が自分で皮下注射して利用する。使い勝手が良くなり、ベーチェット病以外のぶどう膜炎にも選択肢が広がった。東京医科歯科大学の鴨居功樹講師は「今後、治療結果の良くなる人が増えてくるだろう」と期待する。

 治療薬は進歩しているが、発作を抑えきれない重症患者はまだ少なくない。東大の蕪城准教授は「視力がかなり下がってから受診し、手遅れになる人もいる」と危惧する。網膜など眼球の内部が傷付いて視力が低下すると、回復は極めて難しくなる。

 充血などの症状は結膜炎や強膜炎、ドライアイなどでも起こる。ぶどう膜炎による場合でも自然に治まるときがある。繰り返すようだったら放置せず、早めに眼科を受診してみることが大切だ。

◇  ◇  ◇

■原因ごと 異なる治療法

 ぶどう膜炎の原因は多岐にわたる。ベーチェット病やサルコイドーシス、フォークト・小柳・原田病といった非感染性の病気に伴う発症だけでなく、ウイルスや細菌などの感染で起こる場合がある。猫の引っかき傷から感染して発症することもあるという。原因によって治療法が異なり、診断を間違えると悪化を招くこともある。

 東京医科歯科大学病院では、原因を特定できたぶどう膜炎のうち非感染性が約7割、感染性が約3割を占めた。同病院の2001年と11年の調査では、サルコイドーシスが両年とも10%を超えて最も多い原因だった。一方、ウイルス感染による「ヘルペス性虹彩炎」によるものは1.8%から4.7%に増えた。

 増加の背景には診断技術の進歩がある。眼球内の網膜や硝子体などの状態を詳しく調べる画像検査や、細菌やウイルスの種類を素早く特定する遺伝子解析の技術開発が進んでいる。

 東京医科歯科大では眼内から微量の液体を採取し、ヘルペスウイルスや結核、梅毒といった病原体の有無や量を網羅的に調べる手法を実用化した。鴨居功樹講師は「原因を迅速に特定できれば早く治療を始められる」と語る。

 ただ、同大病院の調査では約半数のぶどう膜炎患者は原因を特定できておらず、診断技術などの向上が求められている。

(越川智瑛)

[日本経済新聞朝刊2017年12月4日付]

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