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『オリエント急行殺人事件』 贅を尽くした虚しさ

2017/12/1付 日本経済新聞 夕刊

ベルギー人の名探偵エルキュール・ポアロの生みの親、アガサ・クリスティの代表作の一つを英国映画・演劇界を代表するケネス・ブラナーが監督、ポアロ役も演じたミステリー映画。

原作小説は、1932年に米国で起きた大西洋単独横断飛行の英雄チャールズ・リンドバーグの1歳8カ月の赤ちゃんの誘拐殺害事件に想を得て34年に書かれ、驚愕(きょうがく)の犯人で知られる。

イスラエルで事件を解決、帰国するポアロは季節外れには珍しい個室が満室の列車に乗り込んだ。そんな彼に警護を依頼して断られた悪党ラチェット(ジョニー・デップ)が、雪で脱線事故が起きた深夜、列車内の個室で刺殺された。

1等車の個室には様々な乗客がいる。夜中に目を覚ましたら見知らぬ男がいたと騒ぐハバード夫人(ミシェル・ファイファー)。ポアロは列車に乗る前に、検視にあたった黒人医師と喋(しゃべ)る元家庭教師(デイジー・リドリー)を見た。公爵夫人(ジュディ・デンチ)と召使い、元家庭教師と同室の元乳母だった宣教師(ペネロペ・クルス)。ラチェットの秘書や執事もいる。妻をいたわるハンガリー貴族のアンドレニ伯爵は、演じるセルゲイ・ポルーニンと同じ人気バレエダンサーだ。

列車という名の密室に閉じ込められた全員は容疑者だがアリバイがある。とはいえポアロの灰色の脳細胞は総(すべ)てを見逃さない。その結果、彼は2つの結論を全員の前で明かした。

65ミリのフィルムによる鮮明で美しい映像を駆使して進行する謎解きと乗客の反応。状況説明は丁寧だが、描写があまりに細かくて全体像がぼやけ、原作を知らないと話が見えない不安が残る。そしてその丁寧さが邪魔をしてクリスティ・ミステリーに特有の1930年代らしいおっとりとした甘美な情緒が失われ、あとに残ったのは贅(ぜい)を尽くした虚(むな)しさだった。1時間54分。

★★★

(映画評論家 渡辺 祥子)

[日本経済新聞夕刊2017年12月1日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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