「花炭」づくりに挑戦 植物系なら何でも置物に
カボチャ つやつや黒光り
炭の温かみが恋しい季節だ。そもそも炭とは何か。わかっているようで実はよくわからない。そこで炭のイロハを学びつつ、「花炭」と呼ばれるおしゃれな炭の置物づくりに挑戦した。
まずは炭の最高傑作といわれる備長炭の発祥の地、和歌山県田辺市秋津川を訪ねた。2015年に世界農業遺産に認定された梅と炭の里だ。紀州備長炭記念公園の大沢晃代表に案内してもらった。
大沢さんは「炭の原木を切ることで日当たりが良くなるので、炭づくりは森全体を守る」と教えてくれた。館内には備長炭でつくった「木琴」の音色が流れている。鉄琴に近い金属音が美しい。
炭には白炭と黒炭がある。ウバメガシという樫(カシ)の木でつくる備長炭は白炭だ。1000度以上の高温で焼く。火付きは悪いが火持ちが良い。焼き上がった後、灰で消火するため表面が白っぽくなる。発熱量と遠赤外線の放出能力が高いため料理をおいしくする。一方の黒炭は400~700度で焼く。火付きがいいが、火持ちは短い。
備長炭は木を釜に入れてから取り出すまで2週間を要する。「実際には焼くのではなく、高温の煙でいぶすことで灰にせずに少しずつ炭化させる。炭化すると煙が出なくなる」(大沢さん)という。
炭は農具などをつくるための燃料から暖房や動力、炊事への利用の幅が広がっていった。館内には暖房用の囲炉裏やこたつにあんか、アイロンもある。木炭自動車も展示してある。現在、最も身近なのは焼き鳥やうなぎなど炭火焼き料理用の燃料だろう。
炭の効能と装飾を兼ね備えたのが「花炭」だ。子どもと一緒に家庭で簡単にできる。木炭は人類が発見した最古の画材でもある。炭と芸術とは相性がいいのだ。
花炭づくりのため訪ねたのは新潟県魚沼市の福山森林体験の家。ここも白炭をつくる釜が近くにある炭の里だ。
野菜や葉っぱ、クッキーなど基本的に植物系のものならなんでも花炭にできる。教えてくれた管理人の野村寿さんは「子どもたちは目を輝かせながら夢中になる」と話す。
用意した素材は松ボックリ、イガグリ、ホウズキ、カボチャ、オクラ、ブロッコリー、ビスケット、マカロニ。そして赤いバラ。ガスコンロにお菓子の空き缶を乗せ、アルミホイルを敷き、その上に素材を重ならないように置く。
フタをして火をつける。強火で10分ぐらいすると白い煙が出てくる。15分ぐらいたつと煙が青みがかる。20~30分ぐらいで煙が出なくなったら火を止める。煙が消えるのは、通常の白炭づくりとも共通する「炭化の合図」だ。
ここですぐに蓋を開けてはいけない。「酸素が入り燃え上がることがある」(野村さん)のだ。せっかく炭化した素材が一気に灰になってしまう。缶が十分に冷めたらそっと開ける。この瞬間が緊張する。うまく仕上がったのは、松ボックリとイガグリ。水分の少ないものがうまく仕上がる。野菜や果物は難しいが、カボチャは表面がツヤツヤになり高級感が出た。
ビスケットは表目の文字はそのまま炭化してなんだか可愛い。オクラとブロッコリーは笑ってしまうほど軽く炭化し、形が崩れた。1本300円で買ったバラは大失敗。表面は焼け過ぎ、中は生焼けで花びらの赤みが残ってしまった。水分が同程度のものを組み合わせて入れるのがコツだ。バラのような生花は「花びらが縮まないように固定したら形がきれいに炭化するだろう」(野村さん)という。
同体験の家で「白炭塾」を開いている橘福二さんは「白炭の原木を切ると、そこからまた芽が生えてくる。森を再生させるには適度に木を切った方がいい」と話す。化石燃料は自然環境を破壊したが、木炭づくりは森林を維持し環境をよみがえらせる。
◇ ◇ ◇
多彩なパワー広まれ
記者歴約30年。色々なものを取材してきたが、これほどいいことずくめのものはあまりない。脱臭や除湿に加え、水質浄化や土壌の改良にも利用できるとは。材料木の間伐で、森林や里山の原景が守られるのもうれしい。
新潟薬科大学の及川紀久雄名誉教授は「天ぷら油に白炭を入れると、油の酸化防止効果と水分の吸着効果でカラッと揚がり、お風呂に入れればアルカリ性のミネラル成分が溶け出し美肌効果も生まれる」と炭のパワーを熱く語る。
実際に炭焼きをすると、あの黒い塊に愛着がわく。石油や原子力に代わるエネルギーとして復活することはないにせよ、暮らしを彩る炭の力はもっと知られていい。
(大久保潤)
[NIKKEIプラス1 2017年11月25日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。