おせちの定番 丹波の黒豆、ケーキでも存在感
黒豆がおせち料理に欠かせない食材として店頭で目立つ季節がやってきた。中でも粒の大きさや食感の良さで全国的に評価が高いのが「丹波黒」。発祥の地とされる丹波地域の兵庫県篠山市を訪れると、手間暇かけて品質を高めてきた伝統と共に、黒豆の活躍の場を広げる動きもみえる。
丹波黒の発祥にまつわる昔話が残る篠山市の川北地区。ここで丹波黒をロールケーキに使った「川北ロール」を看板商品として販売しているのが、洋菓子店、お菓子屋豆畑だ。
黒豆とケーキの組み合わせと聞くと一瞬「甘すぎないかな」と思うが、食べてみると、しっとりしたケーキ生地の中から、弾力感のある丹波黒が現れ、程よい甘さが口に広がる。
オーナーの井上哲夫さん(53)は会社勤めから独立し、2007年に出身地に店を開いた。「何か柱になるものを」と地元の名産、黒豆に着目。ケーキに合う炊き方を試行錯誤した。
「近所の人たちにも聞いた」と井上さん。産地だけあって各家庭に黒豆のおいしい炊き方は浸透している。2日間かけて味を含ませるといった基本線は守りつつ、バニラビーンズを加えるといった洋菓子流の工夫も加えた。やや甘めに煮る分、量はケーキの7分の1程度に。クリームはあっさりしたミルクを選んで味のバランスを整えた。
城下町を訪れる観光客が多い篠山市。篠山城址の西北側に位置する雪岡市郎兵衛洋菓子舗では、「丹波黒豆のチーズケーキ」が評判だ。代表の雪岡孝征さん(48)も「全体のバランスが大事」と心得る。
黒豆の量はケーキの4分の1ほどで、たっぷりに見える。だが甘さ控えめに炊いてあり、クリームチーズもすっきりしていて食べやすい。定番のチーズケーキに比べ「チーズの主張を抑え、黒豆が少しだけ勝つように」と配合に気を配った。
02年に兵庫県芦屋市で店を開き、2~3年目から黒豆を使い始めた。12年に故郷の篠山に移転。黒豆を使う量が増えてから「この味で篠山産を煮て」と指定して業者から仕入れているが、「生産者の顔が見えるのでやりがいが増す」。
観光客の黒豆への関心は高く、土・日曜は黒豆入りチーズケーキの販売個数は平日の2~3倍に増える。
スイーツでも魅力を発信するようになった丹波の黒豆だが、歴史は古く、江戸時代には篠山藩から幕府に献上されていたとされる。
1868年(明治元年)に鋳物店から種苗業に転業、黒豆の種子を配るなどして篠山で普及に努めてきたのが卸小売の小田垣商店だ。店頭に煮豆などの商品も並べ「良い黒豆を広く知ってもらいたい」と常務の小田垣昇さん(47)は話す。
丹波黒は「採れた中から良い豆を選んで種にする作業を繰り返してきた」(小田垣さん)。長い年月をかけて豆の質を高めている。
収穫された黒豆も丁寧に選別する。同店の奥では、丸い台を職人さんが囲み、数多くの黒豆を台上で両手で転がしている。傷や虫食いのある豆を目視や手の触覚で調べ、除去するのだ。
皮が薄いことも丹波黒の食感の良さの一因だが、傷も付きやすい。小田垣商店では外観が大事なおせちなど向けに厳しい自社基準で選別。ただ、スイーツで黒豆を丸ごと使わない場合などでは基準外の中で良い豆が利用されることもある。
現在では黒豆が市場に出る期間も正月用以外に広がった。節目となったのも同店と食品大手フジッコのやり取りだ。
同社の煮豆「おまめさん」シリーズに黒豆が加わったのが1980年。当初はおせち用だったが、小田垣商店は「年間商品にしてほしい」と要望していた。試してもらうと「年明け後も売れた」と返事が届く。83~84年ごろから全国的な年間商品へ育つ。今やおまめさんの中で「丹波黒」は年間トップ級の売れ行きだ。
「『家では炊けない』といわれるレベルにする」とブランドマネージャーの入道知生さん(43)。包装の外から見ても丹波黒の粒の大きさやツヤがわかる仕上げが、その人気を生かす。
フジッコの本社は神戸市だが篠山市内の黒豆畑を使い、作付けや収穫体験のイベントを9年前から開いている。小学生らが対象で、12月には料理教室も開く、
「生産者の手間暇かけた黒豆づくりを体感してもらう」(同社)。用途や販売時期に加え丹波黒の良さを知る世代も広げて、歴史をつなぐ取り組みが篠山で続きそうだ。
丹波黒は「くろう豆」とも呼ばれる。栽培に手間がかかるためだ。小田垣商店によると、他の一般的な黒豆は開花から成熟するまで約70日だが、丹波黒は約100日かかる。粒が大きく育つ要因だが、栽培期間も長くなる。面積あたりでみても収量は他の黒豆の半分程度という。
畑では根元に土を寄せる作業などに汗を流し、根が養分を吸収しやすくすると共に、倒れにくくする。収穫時も豆に傷がつかないように気を付けるなどした後出荷、苦労が実を結ぶ。
(神戸支局長 福田芳久)
[日本経済新聞夕刊2017年11月21日付]
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