『ローガン・ラッキー』 札束躍る泥棒映画の醍醐味
いまどき珍しくも札束が躍る大金強奪映画である。
フットボールで大学進学の夢を脚の怪我(けが)で絶たれ、いまや職も金もなく、妻と離婚した兄(チャニング・テータム)。イラク戦争で片腕を失った弟(アダム・ドライバー)。車オタクの妹。両親も不遇のうちに亡くなり、町では"呪われたローガン"と呼ばれる一家の兄が、年に1度の全米最大のNASCARレースの売上金強奪を計画した。
『オーシャンズ』シリーズでプロの犯行をクールに描いた監督スティーヴン・ソダーバーグは『サイド・エフェクト』(2013年)の後に引退、活動の場をテレビに移したが本作の脚本に惚(ほ)れ込んで帰って来た。
素人兄弟の助っ人は服役中の爆破犯ジョー・バング(ダニエル・クレイグ)。彼の危ない弟2人も参加。白昼ジョーを脱獄させ、金庫室の爆破後に刑務所へ戻すのは弟ローガンの担当。売上金はサーキットの下の地下金庫へ輸送管を通って送られるから、ホースで横取りしてゴミ袋で受ける。
素人集団の犯行は多少のほころびを見せながらも無事終了。この間、刑務所ではボヤ騒動、消防車の出動、と慌ただしい。やがてFBIの女性捜査官(ヒラリー・スワンク)が登場!
『オーシャンズ』のプロの緻密な犯行とは正反対。素人犯罪の間抜けなところがスリルと笑いを生む新人レベッカ・ブラントの脚本は、舞台になる米東部ウェストヴァージニアの田舎の人々の郷土愛と連帯を彩りに犯行を輝かせる。
今どきはオンライン化で札束のうなる銀行の金庫などないらしいが、ここでは売上金が紙吹雪のように舞うのが昔風で懐かしい。犯罪も時代と共に変化する。
脚本に魅せられたソダーバーグが近年人気の性格俳優を集め、彼らが演じるふてぶてしさで罪悪感を消し去り、泥棒映画の醍醐味を存分に味わわせてくれる。 1時間59分。
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2017年11月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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