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フリーペーパーが人気 自由な表現、ネットと相乗効果

2017/11/13付 日本経済新聞 夕刊

120種類ものフリーペーパーをそろえる「ONLY FREE PAPER」(東京都小金井市)

 本が売れないといわれるなか、無料のフリーペーパーが人気を博し、合本などが発売される「逆転現象」が起きている。ネット時代との相乗効果で魅力を増している面もあるようだ。

 縄文時代の専門誌、というと古代史を論じた難しい本をイメージするが、フリーペーパー「縄文ZINE」は全く違う。現代女性が土偶をまねたポーズをとる表紙や「縄文マンガ」「縄文人おすすめの映画」など、ユニークな紙面が続く。

 発行する望月昭秀さんの本業はデザイナーだ。縄文時代が好きで、その良さを力説しているうちに誰も話を聞いてくれなくなり、「縄文ZINE」を作ったという。「現代カルチャーと縄文を結びつけ、縄文ファン以外も楽しめるような紙面にしている」と話す。

 バックナンバーはネットで公開しているが、来年1月下旬には合本を発売する。「紙で読みたいという声が多く、長期的な発刊を見据えて、収益のことも考えて出すことにした」

 長野県奥信濃在住の小林徹也さん・直博さん兄弟が高齢者の姿を撮った「鶴と亀」は、おばあちゃん子だった2人が地元をカッコよく発信したいと2013年から制作。敬老の日の今年9月18日、集大成となる写真集を発売した。「複数の出版社から声をかけてもらった」と直博さん。タダのフリーペーパーから人気に火が付き、写真集(発行元はオークラ出版)には既に3000部を超える注文がきているという。

■120種そろう専門店

 フリーペーパーの制作者は様々だが、編集ノウハウを持つデザイナーが手掛けるケースは多い。「利益度外視で始めても、他の仕事に結びつくことが少なくない」と話すのは、東京・東小金井にあるフリーペーパー専門店「ONLY FREE PAPER」を運営する松江健介さんだ。

 同店では120種類ほどのフリーペーパーをそろえていて、来店者はもちろん無料で持ち帰ることができる。「作り手が何を伝えたいか、はっきり分かるものが人気」と松江さん。当初は書店を立ち上げるつもりだったが、既存店舗との差別化を考えて今の形にしたという。経営は、商業施設でのフリーペーパーの置き方を手ほどきするコンサルティングなどで成り立っている。

■デジタルと行き来

 「情報もそうだし、若い人には、生きていく上でのオプションとなる部分にお金を出さない傾向がある。そういう意味では、フリーペーパーは時代に合っているのでは」と松江さんは見る。デジタルメディア全盛期ではあるが「紙が嫌いでウェブ、というデザイナーはまず聞かない」とも。紙もウェブも表現手段の一つであり、そのとき心地いい方を使うにすぎない。

「手紙暮らし」を発刊する江森みずほさん(左)と岸田カノさん(東京都渋谷区)

 デジタルと紙の自由な行き来という点で、手紙の楽しさを伝えるフリーペーパー「手紙暮らし」を制作する高校3年の江森みずほさん、同2年の岸田カノさんは、象徴的な存在だ。海外を中心に、文通相手が数十人いるという2人がペンパルと出会う場所は、交流サイト(SNS)の「インスタグラム」だ。

 フリーペーパーを作ったのは、手紙が届くうれしい気持ちを、幅広い層の人と共有したかったから。「SNSですぐつながれるからこそ、浅いつき合いになっちゃう。私にとって、SNSの先にあるのが文通」と江森さんは話す。千部刷った第1号は雑貨店などに配布し、今月中には第2号を発刊するという。

 ネットメディアと活字文化は対立するものとして語られがちだが、若い世代は分け隔てなく使いこなしている。メディア文化に詳しい福山大学の阿部純専任講師は「昨今の個人発行の小冊子は、デジタルメディアの普及や印刷代の低下が流行を支えている。流通まで自分たちでデザインできるのも魅力だ」と説明する。

 現在のフリーペーパーは、「タダ」である以上に「自由」な表現媒体として、ネット時代ならではの新たな広がりを見せているようだ。

(文化部 桂星子)

[日本経済新聞夕刊2017年11月13日付]

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