講談が大賑わい! 若きスター、神田松之丞がけん引
張り扇で釈台をたたきながら歴史物語などを読む伝統芸能「講談」が人気を集めている。先頭に立つのは34歳の二ツ目、神田松之丞。若きスターの躍進で講談界全体が活況を呈しつつある。
「慶安太平記」や「赤穂義士銘々伝」などの長編・古典から新作まで、笑いを交えた分かりやすい熱演で注目されている松之丞。出演する公演を軒並み満席にするだけでなく、芸歴10周年の今年はライブ録音のCDを2作発表。ラジオのレギュラー番組が始まり、講談師となった経緯を詳しく語った自伝本も出版した。
現在の落語ブームは真打ちになる前の二ツ目人気で火が付いた。寄席にも出演する松之丞は、このブームを自らけん引しつつ、講談界全体を盛り上げている。
客の2割が20代
今年は6月と9月にCDを出したが「二ツ目が単独でCDを出すこと自体が異例」(「松之丞講談」を出したソニーの担当者)という。松之丞は「講談を広める下支えとして、今後もCDのラインアップを充実させたい。初心者に向けて講談が宝の山であることを示していきたい」と語る。
TBSラジオで始まったのは「問わず語りの松之丞」。火曜から金曜までの午後7時半から約10分間、身の回りの出来事を斜めに斬って笑いを誘う。また初の著書「絶滅危惧職、講談師を生きる」(新潮社)では、少年期のエピソードや立川談志を追っかけた高校時代、そこからなぜ講談に引かれたのかなどを率直に語っている。来年には講談の作品と鑑賞法を紹介する入門書を出したいという。
高座も増やしている。今月13日からは東京・国立演芸場で3夜連続となる芸歴10周年記念公演を開催。チケットは完売。浪曲の玉川奈々福や落語の春風亭一之輔ら他ジャンルの人気者が助演し、憧れだった立川談志ゆかりの演目を披露する。12月にかけては全国6カ所を巡演する初のツアー「講談漫遊記」を開く。
こうした活躍が、講談界全体の盛況につながっている。東京・上野のお江戸広小路亭で開く日本講談協会の公演には、平日でも満員近い観客が詰め掛ける。観客は数年前に比べて倍増。松之丞の師匠で同協会名誉会長の神田松鯉らベテランにも新たなファンがつくようになった。松鯉は「これまでご年配ばかりだったが、最近は約2割が20代。ブームで終わらせないために、プロの講談師を増やさなければ」と意気込む。
新しい定期公演も各地で始まっている。人間国宝の一龍斎貞水が会長を務める講談協会は、講談発祥の地とされる東京・日本橋で9月から「やげん堀講談会」をスタート。第2回は11月10、11日だ。
協会の垣根越えて
現在3つの協会に分かれる関西の講談界では、若手による協会の垣根を越えた公演がスタートした。大阪市内のギャラリーを使って始まった「しんまち講談会」は今年4月の第1回から満員御礼。大阪講談協会でともに昨年襲名した旭堂小南陵と玉田玉秀斎、上方講談協会で来年の真打ち昇進が決まった旭堂南青の3人による隔月開催の会で、南青は「僕らの世代はもう分かれている場合ではない。力を合わせて関西の講談界も盛り上げたい」という。
戦後、東西ともに演者の数が減って低迷の続いた講談界。東京ではその後、人生の哀歓を読み上げる女性講談が注目されて人気が復活した時期もあった。そして再び今、新たな観客を獲得しつつある。演芸評論家の京須偕充氏は「寄席で前座修業をして育った松之丞が、かつては高座から一方的に読み上げていた講談を、客席に語りかけるスタイルにして現代のファンをひき付けている。これから関西も含めて人気者が複数出てくることを期待したい」と話している。
(文化部 小山雄嗣)
[日本経済新聞夕刊2017年11月7日付]
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