「白髪染め」は源平の世から オヤジ記者が茶髪に挑戦
脱ごま塩で「渋イケメン」誕生
一本、また一本。気がつくと白髪が増えている。放置する、または黒く染めて隠すという人が男性では多かったが、最近はグレーや茶色に染める人が増えている。ごま塩頭の記者(54)も、人生初めての「染め」に挑戦した。
白髪が生え始めたのはいつだったか。今では思い出せないくらいの量になり、どうしていいか分からぬまま、ごま塩頭になっていた。こんな記者に男性化粧品大手のマンダムは、入浴時に白髪をグレーに染めるカラートリートメント商品を薦めてきた。グレーは白髪になじむ色だ。同業他社もグレーに染めるヘアケア商品を販売している。
「おしゃれ染め」で「渋さ」かもす
さっそく自宅で試した。シャンプー後、タオルで水気を取る。チューブから焦げ茶色の成分を手に取り、白髪の部分を中心に髪全体に塗布。5分間放置した後にすすいだ。
使い始めて5日目の朝、男性の同僚に染まり具合を尋ねる。「前髪の部分がグレーになっている。白髪が目立たなくなった」と驚かれた。週に2、3回トリートメントすると髪全体がグレーになった。
染めてはいないもののグレーヘアの吉川晃司さんが脳裏をよぎる。黒く染める「白髪染め」ではなく、グレーにする「おしゃれ染め」で吉川さんに1センチほど近づいた気がした。「渋さや成熟を醸し出そうとする中高年男性が増えている」(マンダムの担当者)
初めての染めだけに失敗もあった。塗布した後の5分間、湯船につかっていたら、お湯が真っ黒に。後頭部の染め剤がバスタブにべっとり付着し湯に染み込んだのだ。次に入浴する妻のために風呂掃除して湯を入れ替える羽目に陥った。手肌の汚れにも要注意。せっけんでよく洗い流した方がいい。ビニールの手袋を使うのもよさそうだ。
「グレーヘアより一歩先を行きませんか」。東京・原宿の美容室「ラ・ファミリア」を営む大西勇太さん(34)からこんな提案を受けた。一歩先と言う言葉に弱い。大西さんの施術を受けた。
「まず髪をブリーチ(脱色)します」。大西さんは髪全体に白い液体をはけでペタペタ。ブリーチとは髪の色素を抜くこと。これにより次に行うカラーリングの発色を良くする。ただ髪へのダメージが大きい。大西さんはある程度、髪の色素を残してダメージを防ぎながら客の望む髪色に仕上げるのが得意だという。
塗って30分。洗い流すと赤毛だった。黒髪は赤、青、黄の3色素からなる。"優しい"ブリーチで赤の色素が残ったのだ。次に白のカラー剤を頭に塗る。待つこと再び30分、茶髪に変わった。
同様の手順で茶髪にするシニア女性は多いとか。「中高年男性は初めて」と大西さん。数日後、白髪が生えてきた。「白と茶が落ち着いた雰囲気を出していますね」。職場の女性の熱い視線を感じた。
男の「白髪染め」は源平の時代から
茶髪に変えると、ヘアカラーの歴史に興味が湧いた。調べると1183年、平家の武将である斎藤実盛が73歳の時、源氏の木曽義仲との合戦に臨む際に「若々しく死にたい」と白髪を墨で黒々と染め上げたそうだ。埼玉県熊谷市に、手鏡を見て筆で髪を染めようとする実盛像があった。
白髪染めはやがて皇族や貴族の間で普及。草木や果物を煮詰めて黒く光沢を出す染料が出回った。明治時代に入ると歯を黒くする「おはぐろ」で使っていた溶液を白髪染めに転用。その後、輸入染料で染め上がる時間が短くなり一般に広まった。
1960年代には色のバリエーションが増え、「おしゃれ染め」が登場。90年代以降は、アニメの影響で緑や金色に染める若者が出現し、今は若い世代ではおしゃれ染めはごく普通のことになった。
一部の流行に敏感な人々を除き、おしゃれ染めから遠い世界にいた中高年男性。今後、脱・ごま塩頭が進めば、人口が多い年代だけに社会全体の華やぎにつながりそうだ。
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ワックスでシルバーヘアに
グレーとともに渋さを表すシルバーヘアを手軽に楽しめるワックスがあると聞き、生活雑貨店の渋谷ロフト(東京・渋谷)を訪れ買い求めた。
朝、出勤前に白いクリーム状のワックスを両手につけて、髪全体に塗布。この手順を3回繰り返すと今までの茶髪が銀に変わった。シャンプーで洗えば色を落とせるのが売り。茶と銀を日替わりで楽しむのはビジネスの装いとして抵抗があるので、週末の外出で楽しみたい。
渋谷ロフトによると2016年3月、2階のヘアケア用品コーナーに黒髪をシルバーに変身させる商品の専門売り場を開設。今でも中高年を中心に引き合いがあり、コーナーの定番商品として3種類を取り扱う。
(保田井建)
[NIKKEIプラス1 2017年11月4日付]
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