口の機能低下オーラルフレイル 50代から顔の筋トレ
滑舌・食べこぼし…高齢者ご注意 「歯科で定期チェックを」
口の中(オーラル)の機能が低下することで体の衰え(フレイル)につながっていく「オーラルフレイル」。滑舌が悪くなる、食べこぼしや飲み物でむせるといった口回りのトラブルは、高齢者の体が弱っていく最も早いサインだ。健康に重大な影響を及ぼすとは考えず、加齢に伴う衰えのひとつと見過ごす高齢者もいる。本人や周囲がフレイルの兆しに気づき、早い段階で対処することが大切だ。
「よーいスタートと言いますから、まず、タタタタと発音してみてください」。10月中旬、千葉県柏市で開かれた同市地域包括支援センター主催の「フレイルチェック講座」。市内在住の60歳以上の男女約20人が、滑舌の良しあしを測るテストを受けた。
計測器の数値が6以上だと「口回りと舌の筋肉をきちんと動かせている」と判定される。計測を受けた川越久子さん(85)は6以上。「朗読や合唱などの地域活動に参加し、声を出している」(川越さん)ことがフレイル予防につながっている。
講座では質問票で「食べ物や飲み物を、楽にすっと飲みこめないことがありましたか」など12項目を聞き、口の元気度をチェックする。測定を担当する市民サポーターは「チェックを通じて、高齢者自身にフレイルでないかどうかを確認してもらい、予防に取り組むきっかけになれば」と話す。
フレイルは健康とそうでない状態の中間地点を指す用語。口の中のわずかな衰えや偏った食生活の影響を受けて、オーラルフレイルは悪化する。「かめない」→「軟らかい食べ物を選ぶ」→「さらに衰え、いっそうかめない」という悪循環に陥る。「食欲が低下することで栄養状態が悪化する。いずれ介護が必要な状態に発展しかねない」と東京都健康長寿医療センターの平野浩彦・歯科口腔(こうくう)外科部長は指摘する。
フレイルの予防に向けて、自治体や地域の歯科医師会などが、高齢者向けのセミナーや相談会、筋力強化や栄養指導と併せた教室を開いている。こうした機会にフレイルをチェックできる。
自宅ではどのように不調に気づき、対応したらいいのか。平野部長は日々の生活で(1)滑舌が悪くなっている(2)食べこぼしが増えている(3)かむことができない食品が増えている(4)むせてしまう(5)口が渇く――などかむ力の衰えを示す要注意サインを見逃さないことが重要と訴える。
日ごろから注意していないと本人も周囲の家族らも兆しに気付きにくく、単なる加齢によるものと軽視しがち。「本人に不快な思いをさせたくないと、家族があえて指摘しないケースもある」と千葉県歯科医師会専務理事で歯科医の久保木由紀也さんは話す。
放置するとフレイルは進む。久保木さんは「高齢者に症状が出てきたら、かかりつけの歯科医に相談するよう家族が促してほしい」と勧める。
問題は独り暮らしの高齢者だ。家族や知人と食卓を囲む人は、多様な食品を口にしたり、会話も弾んだりして唾液も出て、フレイルになりにくいとされる。独り暮らしだと、同席者もなく好きな物だけを黙々と食べがち。口の状態に関心を払いにくくなる。
久保木さんは「家族らができるだけ高齢者と食事を共にして、フレイルの兆しがないか確認する」ことを勧める。肉親以外でも、知人など日ごろ高齢者と接する人たちが、フレイルになっていないか目を配ることも大切だ。
「かかりつけの歯科医で定期的に口の健康のチェックを受け、メンテナンスをしっかり続けるのが大事」と平野部長は強調する。
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顔の筋肉トレ 50代から意識 音読・カラオケも効果
かむ、飲み込むといった口の動きは、顔回りの筋肉がしっかり動くことが前提だ。オーラルフレイルを防ぐためにも、平野浩彦部長は「50代から意識した方がいい」と話す。
効果があるのは食事の際に口の筋肉をしっかり使うこと。「体の筋肉と同じで、食べる力も意識して使わないと衰える」(平野部長)。食べ物は奥歯できちんとかむ。軟らかい物を食べると主に前歯しか使わず、かみしめるための筋肉が衰えてしまう。食べやすさで食べ物を選ぶようになると、フレイルにつながる。
口の体操も効果的だ。「パパパパ……」「タタタタ……」「カカカカ……」と、パ、タ、カの3音を短時間でどれだけ細かく発音できるかを測る「パタカラテスト」で唇や舌の機能を強化できる。千葉県歯科医師会は3音を含めたフレーズ「パンダのタカラモノ」を繰り返すことを勧めている。
本や新聞などを音読したり、カラオケで歌ったりするのも、口の筋肉を鍛えるのに役立つ。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2017年11月2日付]
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