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私の課長時代

米社買収も「ゴーホーム」 「取引は規律」にうなる 日本郵政社長 長門正貢氏(上)

2017/10/31 日本経済新聞 朝刊

■日本郵政の長門正貢社長(68)は日本興業銀行(現・みずほ銀行)で社会人生活をスタートさせた。米国留学を経験し、国際派として活躍。入社15年目に興銀が買収した米証券会社にバイスプレジデントとして出向する。

 興銀は米子会社を通じ、米プライマリーディーラー(国債市場特別参加者)のオーブリー・G・ランストンを買収しました。米国債や米政府機関債の運用で成果を出していた同社から、運用のノウハウを学んでこいと言われました。興銀が米証券市場で株式の引き受けを始めるにあたり、証券業務のライセンスをとる使命もありました。

■多くの日本企業が米企業を買収した。

ながと・まさつぐ 1972年(昭47年)一橋大社会卒、日本興業銀行入行。シティバンク銀行会長、ゆうちょ銀行社長など経て16年から現職。北海道出身。

 何より大変だったのは米国人職員とのコミュニケーションでした。ランストンはウォール街の老舗でプライドが高い。職員に挨拶すれば無視され、トイレには「ジャップ、ゴーホーム」と落書きされました。

 赴任から半年のこと。興銀と直接やりとりしたがっていたランストントップの意向をくみ、興銀の当時の中村金夫頭取に直訴して単独で会う機会を設けました。ランストンの直接の親会社であるシュローダー銀行は怒り心頭でしたが、それ以降、ランストン側の態度は一変し、とても友好的な雰囲気になりました。

 出向前に先輩に言われました。行くからにはその会社の人間になれと。そしてとことん汗をかいて初めて、信用されるのです。

■日本ですら市場部門の経験がない。苦労したが、得たものは大きかった。

 ある日、チーフトレーダーが先物で米国債を取引していました。価格が上がってきたので積み上げた現物の買い持ちを売ればいいのにというと「それは違う。取引は規律なんだ」との答えが返ってきました。

 相場のあやをついて小遣い稼ぎをしただけ。国債価格が上がるシナリオは変わらないから、買い持ちは維持する。惑わされず売らずに我慢してこそ大きな利益が得られる。聞いて、うなりました。「まあいいや」と思ったら負ける。勝つには規律が必要なのです。

 肝心の証券業務のライセンスは、2006年になってようやく取得できました。興銀がみずほになり、03年に米国統括常務になった際に、手続きを再開。20年越しでの達成に、米連邦準備理事会(FRB)の知人からはお祝いの連絡がきました。粘り強くフォローし続けることが大切なのです。

あのころ
 1985年のプラザ合意後の円高不況を乗り越え、日本はバブル景気に突入した。資産価格は軒並み上昇し、巨額のジャパンマネーが海外に向かった。米企業の買収を加速させ、89年には三菱地所がロックフェラーセンターを手に入れた。都銀も海外事業への積極展開を狙った。

[日本経済新聞朝刊2017年10月31日付]

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