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見やすい表示はどっち? 広まれ「色覚バリアフリー」 地下鉄や病院の表示定着/電子看板などへの採用へ規格整備

2017/10/26付 日本経済新聞 夕刊

色覚バリアフリーに対応した表示の改善例(カラーユニバーサルデザイン機構のガイドブックより)

 「赤色が黒く見える」「紫と青が区別できない」――。そんな色覚多様性の人たちにも分かりやすい表示にしようと「色覚バリアフリー」の考え方が広まってきた。鉄道や病院など公共施設の表示は随分と変わった。しかし液晶画面による動画表示などには反映されておらず、見分けられない例も多いという。再点検する必要がありそうだ。

 産業技術総合研究所の佐川賢名誉フェローは、高齢者や障害者に配慮した製品設計のあり方を長く研究してきた。「地下鉄の路線網表示など、色覚バリアフリーに対する取り組みは近年急速に定着してきた」と話す。

 それだけに町を歩いていて「まだ十分ではない」と感じることがある。例えば、金融機関などにある順番待ちの番号案内で黒い背景に赤い文字が示される。見分けにくい典型例だ。同様に、駅の白色の床にピンク色の方向表示があっても見落としてしまう。

 色覚バリアフリーをさらに普及させようと、産総研は指針となる規格作りを進めている。色覚多様性の約70人の協力者に4000種類ほどの色の組み合わせを見てもらい、見やすい組み合わせ、分かりにくい組み合わせを詳しく調べた。

 様々なデザインに活用できるようデータベースを整備中だ。世界の工業製品などの規格を定めている国際標準化機構(ISO)に提案し、採用を呼びかける。異論がなければ産総研の案を軸に規格がまとまる見通しだ。

 「消火器の赤色が見分けにくいんです。新しい規格ができれば、見やすく変わるかもしれない」

色覚バリアフリーの普及を目指す伊藤東大准教授

 自身が赤を識別できない色覚多様性という東京大学の伊藤啓准教授は産総研の活動に期待を寄せる。

 伊藤准教授は、東京慈恵会医科大学の岡部正隆教授らと協力して2004年にNPO法人、カラーユニバーサルデザイン機構(東京・千代田)を設立し、色覚バリアフリーのガイドラインなどを作ってきた。東京メトロの路線網のデザインや、気象庁のホームページの警報や注意報の表示に色覚バリアフリーを反映させようと協力した。

 東日本大震災が発生した11年、テレビ局の津波警報の色の使い方がまちまちで、混乱した色覚多様性の人たちが「危険度を統一して示してほしい」と各社に要望した。その相談に乗り、表示を改めた実績ももつ。

 印刷物などで活動が理解されてきたと感じる一方で、新たな表示手法として登場した壁面などに取り付けた大画面を使うデジタルサイネージで「色覚バリアフリーが生かされていない」(伊藤准教授)。

 重要な情報は、白黒になっても正確に理解できることが色覚バリアフリーの基本的な考え方だ。色の違いだけでなく、明るさや鮮やかさ、字体や大きさ、点や線、記号などを併用して誤解なく伝えられるようにする必要がある。

 デジタルサイネージはそれほど多くなく、具体的に支障があったという事例はまだない。しかしこれから多用される可能性は高い。伊藤准教授は「混乱が生じてから改善するのではなく、これまでの経験を生かして当初から色覚バリアフリーのデジタルサイネージであってほしい」と強調する。

 産総研の佐川名誉フェローは「色覚バリアフリーは視力が衰える中高年者にも適用できる。当事者だけでなく、社会全体で受け入れるようになれば、より生活しやすくなる」と付け加える。

 ▼色覚多様性 人の場合は一般に、赤・緑・青の3色を感じる3種類の細胞があり、色を見分けている。遺伝子のタイプによってどれかの色を感じる細胞の働きが低い人がいる。赤色の場合を「P型」、緑色の場合を「D型」、青色の場合を「T型」と呼ぶ。
 P型とD型を中心に国内に約300万人いるとみられ、特に男性では20人に1人の割合と高い。かつては「色覚異常」や「色覚障害」などの用語が使われていたが、誤解や偏見につながる恐れがあり、日本遺伝学会が2017年に見直し「色覚多様性」に改訂した。

(編集委員 永田好生)

[日本経済新聞夕刊2017年10月26日付]

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