都市部で狩猟? サバイバル生活の関連本が人気

ニワトリを飼うなど自宅でサバイバル生活をする服部文祥氏
ニワトリを飼うなど自宅でサバイバル生活をする服部文祥氏

都市部でのサバイバル生活を探る本が人気だ。山暮らしでなくとも、身近な場所で植物などを手に入れて食べることはできるらしい。現代日本人は野生を取り戻そうとしているのか。

東京都心から電車に揺られること約40分。最寄り駅から15分ほど歩いた横浜市内の住宅街の一角に、5月刊行の「アーバンサバイバル入門」(デコ)の著者が住む。服部文祥氏は、装備を極力減らした状態で山を登る「サバイバル登山家」として知られる。

目に入ってきたのは築45年の2階建ての家屋と、庭の急斜面にうっそうと茂る草木だ。そこでは犬やニワトリが歩き回る。服部氏は「特殊な地形に建つ古家なので、不動産の世界では問題物件ともいえる。でも、俺にはパラダイスに見えた」と説明する。

2009年末に引っ越して以来、家の改修を重ねつつ、ニワトリを飼って卵を自給し、蜜蜂で自家製の蜂蜜を作っている。斜面でも土を耕し、キュウリやトマトといった野菜からグレープフルーツやハッサクといった果物まで育てる。本ではそんな生活のノウハウを写真やイラストを交えて紹介している。

「動物として…」

中でも目を見張るのが、都市に生息する様々な植物などを採取・捕獲して調理する場面だ。タラの芽やウドなどの山菜、ウメ、タケノコ、ギンナンといったポピュラーなものだけでなく、ミドリガメ、ザリガニ、ヘビ、ウシガエルなどにも挑む。

世界第2位の高峰K2などの登山に挑み、普通の人が見られない景色を目にしてきた服部氏だが「ありふれた日常の延長にこそ驚くべき絶景がある」と語る。それを知るには「自身も動物として生きようという気概を持ち、自分でできることを自分でやることが大切」なのだという。

狩猟に関する本の刊行が相次いでいる

「アーバンサバイバル入門」の売れ行きは好調で、一時はネット上で在庫がなくなった。「猟をする人を中心に、若い女性にも手に取ってもらえている」(編集担当の大塚真氏)。やはり服部氏の著書であるムック本「獲物山」(笠倉出版社)の発行部数も重版がかかって2万部。40~50代の男性を中心に読まれている。静かなブームといえる。

こうした本はほかにも増えている。8月刊行の「狩猟日誌」(共栄書房)は、クレー射撃の元国体選手である今井雄一郎氏が、イノシシなど畑を荒らす害獣を駆除するために狩猟免許を取ったものの、射撃の腕前を生かせず苦闘する姿が日記形式でつづられる。

編集担当の佐藤恭介氏は今井氏が神奈川県南足柄市在住で、地元の猟友会に所属していることに着目。「首都圏にいても丹沢など猟場が身近にあることを実感できる。狩猟という新たなライフスタイルを読者に提示してくれる」と話す。

さらに、狩猟免許取得からハンティングの実際までを指南する4月刊行の猪鹿庁監修「狩猟入門」(地球丸)、仕留めた獲物を食べるための技術とレシピを解説する5月刊行の荒井裕介著「サバイバル猟師飯」(誠文堂新光社)などもある。

一方的享受に疑問

とはいえ、いきなり野生動物をつかまえて食べるのは難しい。まずできることは何か。服部氏に聞くと「包丁を研ぐと料理がしたくなる。料理をし始めると食材に関心が向く。家の周りを歩けばドングリも拾えるしヨモギも摘める。地面さえあればやれることの幅はグンと広がる」。

そしてなぜ今、狩猟やサバイバルが注目を集めるのか。服部氏は「東日本大震災は、電気や食料などを一方的に享受する生き方に多くの人が疑問を持つきっかけになった。自然環境の中で自分に何ができるのか、肉体を通して知りたいと思う人が増えたのではないか」と考えている。

(文化部 近藤佳宜)

[日本経済新聞夕刊2017年10月24日付]

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