『女神の見えざる手』 したたかな女性ロビイスト
ラスベガスの銃乱射事件の記憶も生々しいいま、気になる映画が誕生した。
ワシントンの辣腕ロビイストで知られたエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、自分の信条に反する銃規制法案を潰す仕事を依頼されて大手ロビイ会社を辞め、小規模ながら銃規制を掲げる会社に売り込んで契約した。
『恋におちたシェイクスピア』『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』など、仕掛けより話の面白さと俳優の持ち味をいかす演出で見せるのが得意なジョン・マッデンが監督。女性脚本家ジョナサン・ペレラが書いて「ロビイストの仕事は政治と諜報(ちょうほう)活動を併せたもの」という世界に生きる女性の奮闘ぶりを描き出す。
この仕事は先を読むことが何より重要とスローンは部下に繰り返し言う。選挙が最優先の国会議員を味方にするには彼の後を継ぐ息子の出馬も視野に入れる。洗練された服装に鮮やかなルージュ。デート代わりにエスコート・サービスを利用すれば、敵は相手の男を利用する。彼女が前の会社で手掛けた仕事の責任を追及する聴聞会に、隠し玉の証人として呼び出した。
ここでスローンのしたたかさが物を言うのを見るのは胸がすく。何よりも大切なのは仕事、絶対に勝つ、と金で買った男に自分をさらけだしていた。誰も信用せず、部下にさえ監視をつけて利用しても、スローンは自分の欲望を隠さない。
マシンガンのように喋(しゃべ)りまくるスローンが次々と手を打てば、社会的地位のある男たちの生き残るための行動が妙にケチ臭く見えてくる。そんな生き馬の目を抜くような世界にいるのは昔と変わらない女と男。それが現実なのだろう。
自分の身は自分で守って勝利する。まるで銃規制反対派の言い草そのものなのが皮肉だが、ここから規制の必要と、それを実施する難しさを思って暗澹(あんたん)とした。2時間12分
★★★★
(映画評論家 渡辺 祥子)
[日本経済新聞夕刊2017年10月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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