長く続く咳 3週以上ならぜんそくかも
患者の6割が大人/吸入薬で症状改善
季節の変わり目は、咳(せき)が止まらず悩む人が増える。風邪やアレルギー反応が原因とは限らない。長く続くなら、ぜんそくの可能性を疑ってみよう。身近な病の実態と対処法を探った。
ぜんそくの正体は、空気の通り道である気道の慢性的な炎症だ。粘膜が常にむくみ、腫れあがって気道が狭くなるため、わずかな刺激にも過敏に反応して、咳や呼吸困難などの発作を引き起こす。
子どもに多い病気という印象が強いが、年齢を問わず発症の可能性がある。高齢者を中心に大人がぜんそくになることも多く、国際医療福祉大学教授の足立満氏は「ぜんそく患者のうち、約6割を占める」と指摘する。
ぜんそくには気道のアレルギー反応で発症するケースと、風邪などのウイルス感染が引き金になるケースがある。「小児で発症するぜんそくの約9割はアレルギーが原因」(足立氏)。ダニやカビ、ペットの毛やフケなどがアレルゲンになりやすい。
大人になってから発症するぜんそくのきっかけで、多いのは風邪だ。風邪による炎症が気道に及ぶことで咳だけが長期間続く「咳ぜんそく」を発症する。放置すると炎症が悪化し3~4割が「気管支ぜんそく」に進行するという。
気管支ぜんそくは咳に加えて、息を吐くたびに喘鳴(ぜんめい)と呼ばれるゼーゼーヒューヒュー音がしたり、呼吸困難になったりするのが特徴だ。「2、3週間ほど咳が続くなら、呼吸器の専門医を受診する方が良い」と日本大学医学部主任教授の橋本修氏は助言する。
風邪など感染症が原因の咳は、大半が3週間未満で自然に治る。一方でぜんそくによる咳は長く続くうえ、何もしないでいると悪化する。ぜんそくにつながる咳を見分けるための手掛かりになる。
咳や息苦しさなどぜんそくの発作は、特に深夜から明け方の就寝中に悪化しやすい。横たわっているより、座る姿勢の方が呼吸が楽になり、咳も治まりやすい。ぜんそくが重症化すると、歩行や階段の昇降といった日常的な動作をきっかけに咳や呼吸困難が起きる。
治療は気道の炎症を抑えて発作を防ぐ「吸入ステロイド薬」と、呼吸を楽にする「気管支拡張薬(ベータ刺激薬)」で症状をコントロールするのが基本。現在は2つの薬の配合剤が主流だ。
「効果が高く副作用が非常に少ないので、安心して長く続けられる」と足立氏。口から微細な薬を吸うため、内服ステロイド薬の約100分の1の成分量にとどまる。吸入ステロイド薬の登場以来、ぜんそくの死亡率は激減したという。
数日から2、3週間の吸入で咳などの発作は収まる。ただ気道の炎症は残っているので「自己判断で薬を中断せず、医師の処方にしたがって吸入を続けることが改善への近道」(橋本氏)。
一時的に発作が治まっても、環境の変化や刺激を受けることで繰り返し発症しがちだ。再び起きた発作が炎症を悪化させ、さらに気道が敏感になるという悪循環を招くので注意したい。
寒暖差が大きい季節の変わり目や台風などによる気圧の急変、エアコンなどの冷気、タバコや線香の煙、香水、風邪などが引き金になりやすい。自分の発作のきっかけを記録することで見極めて、予防につなげよう。「特に喫煙や副鼻腔(びくう)炎、肥満などはぜんそく悪化の要因になる」(足立氏)
「大人のぜんそくは、完治することがほとんどない」と橋本氏。「高血圧や糖尿病のように、良好な状態にコントロールすることが大切」と心得て対応したい。
(ライター 結城 未来)
[NIKKEIプラス1 2017年10月14日付]
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