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自転車で仮想都市を疾走! VRできつい運動も楽しく ドッジボールや卓球は大人が熱中する「ゲーム」に

2017/10/7付 日本経済新聞 夕刊

映像を見ながら、音楽に合わせて自転車型の運動器具をこぐ「ザ・トリップ」の参加者(東京都渋谷区の「サイクル&スタジオR渋谷」)

 拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などデジタル技術を生かした新たなスポーツが次々と生まれている。既存のスポーツにデジタルならではの特殊効果を加え、年齢や運動能力を問わずにゲーム感覚で楽しめて運動にもなる。点数を競うだけでなく参加者のコミュニケーションを円滑にする効果も。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてスポーツ人口が増えれば、健康増進や市場拡大にもつながりそうだ。

 平日の午後7時、渋谷駅近くのフィットネススタジオ。男女約20人がインストラクターの掛け声で一斉に自転車のペダルをこぎ始めた。スポーツクラブ大手のルネサンスが3月に開いた「サイクル&スタジオR渋谷」だ。

 幅12メートルの巨大スクリーンに映し出されるのは、高層ビルがそびえる未来都市をイメージしたVR。ニュージーランドの企業が開発したプログラム「ザ・トリップ」は画面から飛び出すような映像が特徴だ。起伏に富んだ空中回廊をジェットコースターのような速さで一気に駆け下りる。

 40分間ほぼ全力でこぎ続けるハードな運動だが、映像と音楽にのって仮想世界に陶酔できる効果は絶大。週2~3回訪れる40代の会社員、石川未夏さんは「映像と合わせてこぐので苦しさを忘れて完走できる」と話す。

■上級者と初級者の対戦も可能に

 目の前の現実に映像などを重ねて拡張するARは、ドッジボールを大人も熱中するスポーツに変えた。9月下旬、横浜市の大型商業施設内のゲームセンターでは、2組に分かれて向かい合う男女が素早く腕を前に出したり、しゃがんだりしている。はたから見ると奇妙だが、競技者には目の前を火の玉状のボールが飛び交う様子が見えている。

 これはベンチャー企業メリープ(東京・港)が開発した「HADO(ハドー)」。装着したゴーグルの内側にはスマートフォン(スマホ)が組み込まれ、捉えた画像を基に競技者の位置や向きを把握。腕につけたセンサーが動作を感知、ボールやバリアーを映し出す仕組みだ。8月に始めたという松葉有香さん(28)は「ドッジボールよりゲーム性が高く、大人も楽しめる」と興奮した様子。

映像に球が当たると得点が入るデジタル卓球(東京都渋谷区のT4 TOKYO)

 デジタル技術の導入で、つらいはずの運動や単純に勝ち負けを競う競技が、仲良く楽しめるものに変化している。スポーツクラブでの自転車こぎは黙々と取り組む印象だが、VRを使うとひと味違う。「一体となって映像の世界観の中を旅したいと友人同士の参加も多い」(ルネサンスの荻田雅彦執行役員)。HADOも通常のドッジボールより互いが協力しあう必要がある。「役割分担など戦略を立てるうちコミュニケーションが生まれる」(メリープの福田浩士最高経営責任者)

 ARを使うスポーツなら、技量に差がある人とも対戦が成立するようになる利点も。ゲームメーカーのアカツキが6月に開発した「PONG!PONG!(ポンポン)」はデジタルと融合した卓球だ。

 卓球台にはプロジェクターで碁盤の目のようなマスが映し出される。特定のマスに実際のピンポン球が当たると爆発音や映像とともに得点が増える。高得点を得るには相手が打ち返せないボールを打つより、やり取りが長く続いた方がいい。必然的に上級者と初心者の対戦が可能になる。

 デジタル卓球を支えるのは高度な技術。まず卓球台に向けた2台のカメラをつないだパソコンが、球の位置から最終的な落下地点を予測。台に落下すると同時にプロジェクターが映像を投映する。反応は速く「プロが思いきり打っても球の着地と衝突の映像にずれが生じない」(アカツキの佐藤永武さん)という。

■デジタル機器の低価格化が追い風

 デジタル技術を取り入れたスポーツが増えている背景にはARやVR、センサーなど技術の進化のほか、機器の低価格化がある。

 VRに必要なヘッドマウントディスプレーではソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が昨秋に約5万円で製品を発売。他社も10万円以下の製品が登場した。この分野に詳しい電気通信大学の野嶋琢也准教授は「機器の価格が下がれば、新スポーツ向けに開発する動きも盛んになる」と説明する。

 デジタル化でスポーツの裾野を高齢者や子どもに広げられるとの期待もある。2016年4月にはスポーツ弱者をなくすことを目標とする一般社団法人「世界ゆるスポーツ協会」(東京・中央)が設立。約50の種目を開発済みで、デジタル技術を使うものも多い。企業などから「開発した技術を生かせないかという問い合わせも相次いでいる」(沢田智洋代表理事)という。

 日本政策投資銀行によると小売りや興行、放送などを合わせた国内のスポーツ市場は12年時点で約5兆5千億円。02年に比べ2割縮小した。政府は東京五輪・パラリンピックを追い風に、25年には15兆2千億円市場に育てる方針。スポーツの奨励で健康でいられる期間が延びれば、医療・介護費の増大も抑えられるともくろむ。

(小山隆史、相馬真依)

[日本経済新聞夕刊2017年10月7日付を再構成]

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