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介護に備える

介護も医療も自宅で受ける 「看多機」都市部で注目

2017/10/5付 日本経済新聞 夕刊

 介護サービス拠点に看護師が常勤し、看護と介護のサービスを一元的に提供する「看護小規模多機能型居宅介護(看多機=カンタキ)」が注目を集めている。医療的なケアが必要になった要介護者が、施設に入らなくても介護サービスと医療処置を介護拠点や自宅でワンストップで受けられるのが特徴。都市部の高齢化が急速に進むなか、在宅生活を支えるサービスの現状を探った。

酸素吸入のケアを受ける「看多機」の利用者(左)(神奈川県横須賀市)

 横須賀市に住む女性、Sさん(83)は9月から、介護大手セントケア・ホールディングの子会社、セントケア神奈川(横浜市)が運営する事業所で看多機のサービスを利用している。

 呼吸器の持病があるSさんは7月末に肺炎で入院。退院後は要介護状態になり、常時酸素を吸入する生活を始めた。酸素を濃縮する装置を使うため、火を使った調理を避ける必要が出るなど、これまで通りの一人暮らしが難しくなった。

 ケアマネジャーと相談し、医療処置が受けられる看多機の利用に踏み切った。現在は横須賀市の看多機の拠点に短期宿泊する形で、看護師が見守るなか酸素吸入を伴う生活を送っている。

 「自宅で暮らし続けたいというのが母の強い要望」とSさんの長女(58)。今後は訪問看護などでサポートを受けて自宅で過ごす日を徐々に増やし、ゆくゆくは自宅中心の暮らしに戻ることを目指している。

 看多機は2012年、介護保険の地域密着型サービスとして導入された。1つの事業者が、看護と介護の両方のサービスを泊まりや通い、訪問の3つの形で一元的に提供。要介護者の在宅生活や家族による介護を全面的に支える。

 利用者は看護師や介護スタッフに自宅に来てもらうほか、拠点に通ったり、短期宿泊したりとニーズに応じたサービスを組み合わせて受けることができる。主治医と連携し、24時間365日体制で看護師が緊急時に対応する。

 どんな利用者が使っているのか。「退院後の在宅療養への移行支援が最も多い」とセントケア神奈川の看多機事業所の境美穂所長は話す。看護師が胃ろうによる栄養管理やストーマ(人工肛門)の管理、たんの吸引などをする。要介護者の通所時を活用し、看護師が自宅でのケア方法を家族に指導することもできる。

 妄想や徘徊(はいかい)といった行動・心理症状(BPSD)が目立つ認知症患者のケアも、看多機が力を発揮する。看護師が症状を観察し、症状が落ち着くような適切なケアや対応を、主治医とともに進める。

 末期がんの患者が、緩和ケア病棟や特別養護老人ホームなどが見付かるまでの間、看多機で痛みのケアなどを受けるケースもある。

 利用料は介護保険の定額料金(要介護3の場合、約2万5000円)のほか、食費や宿泊費などが別途必要。泊まりが多いと月額料金は高くなる。

 ハード面で新しい試みを取り入れた看多機も登場した。医療法人社団プラタナスが5月に開設した「ナースケア・リビング世田谷中町」(東京・世田谷)は、認知症ケアの研究で実績を持つ英スターリング大学による内装デザインを採用している。

 一般的な白一色の浴室だと、利用者が床と壁、手すりなどの区別ができずに事故を招きやすいため、目立つ色の壁や手すりを設置。「白内障や、視野が狭くなった高齢者も多い。認識しやすいデザインが高齢者の安心や事故防止につながる」と片山智栄所長は語る。

 医療費削減のため病院が入院日数を短縮するなか、自宅で療養する要介護者の医療ケアへのニーズは大きい。看多機は在宅に戻るまでの受け皿に加え、在宅が前提の介護療養生活を支える選択肢になっている。

 介護制度に詳しい東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授は「地価が高い大都市では、特別養護老人ホームなどの施設整備は難しい。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に年金収入だけで入れる高齢者も限られる」と指摘、「在宅で医療的なケアを提供するサービスの充実は不可欠」と話す。

 看多機はまた、医療ケアが必要で目を離しづらい要介護者を受け入れることで、介護する家族の休息を可能にする「レスパイトケア」も担う。在宅介護が広がるなか、看多機が支える対象は増えていきそうだ。

◇  ◇  ◇

■事業所数は伸び悩み

 看多機を提供する事業所の数は伸び悩んでいる。2017年4月時点の事業所数は350。06年開始で、施設への通いと短期間の宿泊、訪問介護のサービスを1事業者が一元的に提供する「小規模多機能型居宅介護(小多機)」の事業所が全国に5155あるのに比べて低い水準だ。

 看多機は当初「複合型サービス」として登場したが、医療と介護を組み合わせたサービスの特徴が利用者に伝わりづらかった。15年に名称を変え、認知度アップを図っている。

 事業参入の難しさも普及が進まない一因だ。小多機の事業者が看多機に参入する場合は看護師の確保が、訪問看護ステーションが参入する場合は土地・建物の確保が、それぞれハードルになっている。

(相川浩之)

[日本経済新聞夕刊2017年10月5日付]

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