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介護に備える

認知症の人支援、自治体が動く 医師や市民団体が連携

2017/10/2付 日本経済新聞 朝刊

 認知症の人や、その疑いのある人を支援しようと、自治体が独自の取り組みを進めている。京都府は昨年から、初期から軽度の認知症の人を、医療から生活まで総合的に支援する「リンクワーカー制度」を立ち上げた。北九州市は医師や市民団体などが連携して支援する「ワンストップ拠点」を設置した。家族や医師などの意見も取り入れ、進行に合わせた支援の在り方を探っている。

東京都では住民が主体となった「通いの場」作りをすすめる(東京都多摩市)

 8月末、京都市で「認知症リンクワーカー」を養成する研修が開かれた。リンクワーカーはスコットランドの事例を参考に京都府が設けた制度だ。認知症と診断された初期から軽度の人とその家族にパートナーとして接し、病気と向き合って暮らせるように精神面や日常生活を支える役目だ。

 認知症は推計で国内に約500万人。2025年には高齢者の5人に1人がなるといわれる。認知症になる可能性がある軽度認知障害も12年時点で約400万人と推計されている。公的サービスを使っていない高齢者に認知症の人がいるとみられており、疑わしい段階からの本人や家族の支援の充実が求められている。

 全国的に認知症の疑いのある人や初期の人を対象に、医療機関の受診などを助けるサービスの設置が進む。だが症状が進んでも介護サービスが必要な段階になるまで他の支援がなかった。この「空白期間」を埋めるため、京都府はリンクワーカー制度を設けた。

 医師会や認知症の人や家族などが参加する委員会を設け、15年度から検討を重ねた。京都府高齢者支援課の谷内穂高副課長は「当事者の視点を重視し、必要な支援を届ける制度を作った」と話す。

 京都市の杉野文篤さん(64)は空白期間を実感する一人だ。約5年前、若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けた。自分はこれからどうなるのか、どう病気と向き合って生きればいいのかと不安や恐怖が募った。迷惑をかけていると悩んだ末、1年後に仕事を辞めた。

 その後、妻に誘われ、認知症の人や家族との交流会に参加した。転院して若年性認知症向けのテニス教室や、認知症の高齢者や家族の集う「認知症カフェ」に参加するようになり、だんだんと不安がなくなった。杉野さんは「私はたまたま運がよかっただけ。早くから相談などの支援を受けられれば、しんどい思いをする人が減る」と訴える。

 京都府のリンクワーカーを養成する研修は今年度で3回目。これまでに保健師や看護師、介護職員ら約130人が受講した。だが、現場に配属されたのは綾部市の3人にとどまる。制度はまだ始まったばかりだ。

 今年4月の調査では3町村が今後の配置を予定し、9市町が検討中とした。谷内副課長は「府内のどこでも支援が受けられるようにしたい」と話す。

 北九州市は昨年4月、自治体だけでなく、地元の医師会や市民団体など6者と連携し、ワンストップ拠点「認知症支援・介護予防センター」を設けた。同センターの宮永敬市所長は「認知症の人や家族の支援と介護予防の取り組みは、行政だけでは実現できない。地域の様々な団体の力を結集させる必要があった」と狙いを説明する。

 同センターには歯科衛生士や栄養士、作業療法士などの専門職団体や企業、市民団体など約50団体が「応援団」として登録。例えば、認知症の人に向けた出前講座を行う際、リハビリや栄養指導などの講師を派遣してもらうといった協力を求めるという。

 宮永所長は「拠点化することで『支援したい』『関わりたい』との思いを持っている団体や企業、研究機関などをつなぐ場になった」と力を込める。認知症の人や家族もここに来れば必要な情報がすべて集まる。交流し情報交換できる拠点になるわけだ。

 ほかの病気の対策も含めて、認知症の人が介護状態になるのを防ぐ取り組みも進む。

 東京都は予防の体操などをする場を増やすため、17年度から「介護予防による地域づくり推進員」の制度を始めた。都は住民の中から介護予防の活動をするリーダーを養成している。推進員はこのリーダーや民生委員、自治会などが高齢者の集まる「通いの場」を設ける手伝いをする役目だ。

 通いの場では、高齢者が体力作りをするだけでなく、周囲と関わることで他の人を支える担い手となることも狙う。住民の主体性を促すことで自治体の予算の制約に縛られず、活動が持続すると期待している。

 東京都は推進員を置いた各自治体に補助金を出す。現在25人いる。多摩市の推進員、桐林亜希子さんは「通いの場に来ることで、友人が増え、趣味が増えたと話す人が多い」と手応えを感じている。

◇   ◇   ◇

■早期発見で自宅療養 厚労省 チーム配置

 厚生労働省は認知症の疑いのある段階など早期に発見して症状の進行を遅らせ、施設に入らず在宅で療養できるようにする狙いの施策を進めている。2014年度から医師や看護師、福祉職など多職種で構成する「認知症初期集中支援チーム」の普及に取り組む。今年3月末時点で703市町村が設置済みだ。来年4月に全市町村で同チームの配置完了を目指す。

 同チームは相談が寄せられるのを待つのではなく、条件を満たす対象者の家庭を訪問し、支援が必要な人を積極的に探し出すのが特徴だ。13年度に全国14カ所で行ったモデル事業では、受診勧奨や適切な介護サービスの紹介、家族への助言などの支援を6カ月間集中的に提供した結果、その後も91%の患者が在宅での療養を続けられたという。

 同チームの成功のカギを握るのは、支援が必要と思われる人の情報を、地域の民生委員や住民などからいかに集めることができるかという点だ。同省の担当者は「認知症への理解を深める啓発活動にも力を入れたい」としている。

(藤井寛子、倉辺洋介、越川智瑛)

[日本経済新聞朝刊2017年10月2日付]

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