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深海魚の「旬」到来 イカやサンマ不漁で期待の味

NIKKEIプラス1

2017/9/30付 NIKKEIプラス1

「深海魚撮影会」には100人以上の参加希望がある

 ギョロッと大きな目に、鋭くとがった口……。深い海で暮らす深海魚が、これまであまり食卓で見かけなかったが「食べておいしい」と人気上昇中だ。見た目は正直、かなりグロテスク。本当においしいの?

 水深2500メートルと、湾としては日本一深い静岡県の駿河湾。沼津港の飲食店「浜焼きしんちゃん」のメニューには、浜焼きの「メギス」(190円)や「メヒカリの唐揚げ」(480円)など珍しい魚がずらり。深海魚の面々だ。

 深海魚とは、水深200メートルより深い水域での生息が確認された魚のこと。日本一深く、山麓から栄養豊富な水が流れ込む駿河湾は「世界有数の深海魚の宝庫」(沼津港深海水族館の石垣幸二館長)。100年以上前から、底引き網で深海魚を水揚げしてきた。

 沼津港から車で1時間ほど走ると、国内有数の深海魚の水揚げ拠点・戸田漁港がある。毎年5~9月中旬は資源を保護する禁漁期間。解禁直後の初秋は「水揚げの量も種類も最も多い」(沼津市政策企画課の遠藤重由主査)。いわば、深海魚の「旬」到来だ。

 9月下旬の早朝。戸田漁港から漁船が続々と出港する。漁場に着くと水深200~300メートルまで網を降ろし、引き上げる。何が網にかかるかは「誰にも分からない」(地元の漁師)。4メートルを超えるタカアシガニがとれることも。

 太陽の光が届かず、低酸素、低水温、高水圧の過酷な環境で暮らす深海魚。アジやサンマなどとは姿がだいぶ違う。何しろ、顔が怖いのだ。わずかな光でも感知できるよう、体に比べて眼球が巨大なものが多く、見つめられると「ギョッ」と声を上げたくなる。

 ただ、味わいとなると話は別らしい。深海魚は「身がふっくらとして、脂が乗ったものが多い」(戸田の飲食店、丸吉の中島寿之店主)。冷たく深い海でじっとしていることが多いからだろうか。はっきりとした理由は不明だ。

 メギスはキスのような姿に、ぎょろりと大きな目を持つ。クセのない優しい味わいで、刺し身、煮付けに天ぷらにと「幅広い料理に重宝する」(中島店主)という。

 沼津市のご当地バーガー店「沼津バーガー」でもメギスの「深海魚バーガー」(680円)が一番人気。白身をカラッと揚げ、特製ソースと一緒にバンズに挟んでいる。一口食べる。ふんわりした身から、適度に脂が溶け出す。

 メギスよりさらに見た目が怖いのは「ゲホウ」。先端がとがった奇っ怪な顔だ。アタマが大きく、食べるところが少ないのが難点だが、煮付けや天ぷらにするとタラのようにふっくらとした食感になる。顔で判断してはいけない。

 「トロボッチ」は、目が青緑色に発光するため「メヒカリ」とも呼ばれる。白身は軟らかく、空揚げや塩焼き、刺し身にしてもおいしい。

 急深な海のある地域では深海魚は古くから食卓に並んできた。神奈川県小田原市では「アブラボウズ」、富山県では「ゲンゲ」などがとれる。

 ただ深海魚の人気が全国的に高まってきたのは最近だ。鮮度が落ちやすく、とれる量が安定しない。大漁になるとカマボコ用などとして安く買いたたかれていた。ところが近年、イカやサンマなどの大衆魚が軒並み不漁。「未利用魚」として見直されている。

 水産大手の佐政水産(沼津市)は見た目が珍しく、種類豊富な深海魚は「地元の財産」(佐藤慎一郎専務)。冷凍品や加工品にして全国の量販店や飲食店に提案しており「評価は予想以上に高い」。

 希少性から人気は高まるが「深海魚は成長が遅く、乱獲すればあっという間になくなってしまう」(神奈川県水産技術センターの臼井一茂主任研究員)。どこまで深い海の魚を食べられるのか、挑戦してみたい。そんな人間の欲望は尽きないが、限られた資源を大切に、将来にも食べつないでいく必要がありそうだ。

◇  ◇  ◇

■生きた姿を見に行ける

 深海魚は食べておいしく、見ても面白い。「沼津港深海水族館」(沼津市)では国内外の深海魚を生きたまま、常時60~100種類展示している。深海の生き物はとにかくデリケート。水圧、水温、光の変化で弱ったり、死んだりするものも少なくない。漁獲から、展示まで成功する確率はほんの数%だ。

 戸田観光協会(沼津市)は30日「深海魚撮影会」を開催する。水揚げされた魚を間近で見て、自由に撮影できる。サメ解体ショーも人気で、毎回100人以上の参加希望がある。次回は11月19日。

 深海魚はまだまだ謎の部分が多い。石垣館長いわく「だから胸がわくわくするのでしょうね」。

(佐々木たくみ)

[NIKKEIプラス1 2017年9月30日付]

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