「ご当地体操」各地で誕生 寝たきりや転倒防ぐ効果
歌や発声で脳にも刺激
歌ったり声を出したりしながら全身を動かす地域独自の体操で、高齢者が寝たきりになるのを防ぐ取り組みが各地で広がっている。年齢とともに衰える足腰の筋肉や、脳を活性化させる効果がある。急速な高齢化が進む中、自治体は介護予防などの効果に期待する。
「ドはドーナツのド、レはレモンのレ……」。8月下旬、長野県須坂市の施設で、同市が開く「健康体操サークル」の参加者の元気な声が響き渡った。
集まった60代の市民約30人はドレミの歌のほか、県歌「信濃の国」などを歌いながらリズミカルに全身を動かした。体操を終えると、「思ったより疲れるけど楽しい」「運動不足だからちょうど良かった」など笑顔で会話を交わした。
「須坂エクササイズ」と呼ばれる市独自の体操は、関節や肩甲骨など年齢とともに使う回数が減って衰えやすい体の部位を中心に動かす。曲ごとに約30種類の動きがあり、「腰痛予防」や「筋力アップ」などの効果があるという。
体操は1980年代に、市内の各地区で健康指導をする住民組織「保健補導員」が生み出した。脈々と受け継がれ、2014年に須坂エクササイズと命名、ガイドブックも出版した。今では自主的に「サークル」をつくって定期的に楽しむ市民もいる。
平均寿命が全国トップの水準を誇り、長寿県として知られる長野県。その中でも須坂市は要介護認定率が15年度時点で県平均の17.4%を下回る14.0%で、市民の健康意識も高い。市健康づくり課の担当者は「今後は若い世代の健康づくりにも役立ててもらいたい」と期待を寄せる。
全身を動かしながら声を出す介護予防体操は各地で誕生している。東京都荒川区は高齢者の転倒予防を目的とした「荒川ころばん体操」を開発。「あらかわの"あ"、あらかわの"ら"」というように、声を出しながらイスに座るなどして足で文字を書く。18分かけて36種類の動きをし、足腰の柔軟性を高める体操だ。
背景には一人暮らしの高齢者の増加がある。区によると、20年ほど前から「高齢者が家の中で転んで倒れていた」という報告が増え、02年に首都大学東京と共同で独自の体操を開発した。
区の施設や特別養護老人ホームなど区内26カ所を会場にした体操教室を毎週2回ほど開催。教室を仕切る指導員も年30人ほど養成しており、現在150人程度が区内で活動している。
1年間の体操教室の参加者は計約1700人。担当者は「家にこもりがちだった人が外に出るようになった」と話し、今後も高齢者が活動する場を増やしていく方針だ。
千葉県我孫子市では歌に合わせて体を動かす独自の体操をつくり、14年にDVDを製作。福祉団体や学校などに配布した。
立ちながら体操をする「通常バージョン」のほか、イスに座り、骨や関節などが衰えて運動機能が低下するロコモティブシンドローム(運動器症候群)を予防する目的の「ロコトレバージョン」がある。保健センターでビデオを流したり、体操の出前講座をしたりするときに利用している。
介護予防などに詳しい筑波大学大学院の山田実准教授(老年学)は「2つのことを同時にやることが転倒予防に、口を動かして言葉を発することが話したり食べたりする口の機能の維持につながる。介護予防の効果がある」と分析。「ただ単純に体操をするよりも歌などを取り入れることで飽きにくくなり、継続的な参加にもつながる」と指摘している。
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運動仲間とのふれあい 外出のきっかけに
高齢化の進行によって介護を必要とする人は今後さらに増えていくと予想される。厚生労働省が発表した2016年度の介護給付費実態調査によると、介護や介護予防サービスの利用者は613万8千人(前年比1.4%増)で、10年連続で増えている。
こうした中、少しでも長く元気で生活ができるように音楽を使ったり言葉を発したりしながら手軽にできる介護予防体操に取り組む福祉施設は増加。一部の自治体では地域の高齢者が自らグループをつくり、公民館などで体操教室を開く活動もみられる。
高齢者が集団で活動することは、体を鍛える運動効果だけでなく外出をするきっかけづくりとなり、孤立の解消にもつながる。筑波大学大学院の山田准教授は「参加者同士の会話がコミュニケーションを取る貴重な機会になる」と話している。
(石原潤)
[日本経済新聞夕刊2017年9月21日付]
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