日本語以外もOK 国立美術館・博物館が多言語で解説
国立美術館、博物館が解説や音声ガイドの多言語化を急ピッチで進めている。訪日外国人が、日本美術だけではなく欧米の美術や現代アートの展覧会にも数多く訪れているのだ。
大阪市北区の国立国際美術館で開かれている「バベルの塔」展(10月15日まで)。16世紀の画家ブリューゲルを軸にした展覧会だが、作品解説のパネルを見ると日本語、英語のほかに中国語と韓国語もある。同館では今春から、従来の2カ国語に中国語と韓国語を加えて解説を4カ国語に増やした。同展には日本人だけではなく、海外からも来場者がある。
4カ国に対応
同展を担当した国立国際美術館の安来正博主任研究員は「数年前から外国人の来場者が増えており、受け入れ体制が課題だった」と話す。解説パネルだけでなく、会場案内図や作品リスト、音声ガイドなども4カ国語で用意した。多言語化を進めることで「外国人客を歓迎する姿勢を示したい」(安来氏)。
この4カ国語対応は、全国の国立博物館、美術館が昨年末頃から一斉に進めている"一大プロジェクト"だ。数年前までは、訪日外国人に人気の展覧会といえば浮世絵や日本の伝統工芸品が並ぶものだったが、最近は「バベルの塔」展のような欧米の美術も見に来る。日本の現代美術に関心がある。あるいは、最先端の企画展が数多く開催されている日本の美術シーンに注目する外国人も今は多いのだ。
もちろん、2020年の東京五輪に向けて、訪日外国人が増えると見込んでの対応でもある。
現状で目立つのは、やはりアジアからの観光客だ。国立新美術館(東京・港)では4日まで開かれていた著名彫刻家の展覧会「ジャコメッティ展」などで、中国語の音声ガイドの貸出件数が英語を上回った。同館の長屋光枝学芸課長は「英語以外の言語による作品解説には需要がある」と手応えを語る。
ただ、スペースに限りのある会場で、解説パネルを無制限に増やすことはできない。解決策として同館が導入したのが、来場者に自分のスマートフォン(スマホ)で会場に張り出したQRコードを読み取り、各国語の解説文をダウンロードしてもらう方法だ。
開催中の東南アジアの現代美術展「サンシャワー」(国立新美術館と森美術館で10月23日まで)では日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語の作品リストや音声ガイドがあるだけでなく、QRコードから4カ国語の解説をダウンロードすることもできる。手元で解説を見ることができる上、展示パネル付近が混み合うことも避けられるため、来場者に好評だという。
チラシも日本語と英語の2カ国語になりつつある。東京国立近代美術館(同・千代田)は、開催中の「日本の家」展(10月29日まで)のチラシを日英の2カ国語で制作。東京国立博物館(同・台東)の劇場で開催中の「DOGU 縄文図鑑でめぐる旅」(11月5日まで)も、場所や入場料などを日本語と英語で併記し、外国人が訪れるきっかけにつなげようとしている。
翻訳確認に課題
一方、多言語化には課題もある。多くの館では展覧会の解説文を担当の学芸員が執筆する。作品の意図や時代背景などについて理解を深められるよう文章を練っているが、翻訳は外部委託している施設が多い。
翻訳文は英語であれば学芸員がチェックできるが、中国語や韓国語まで精査するのは難しい。固有名詞や専門用語などは専門知識のある人材でなければ誤訳する恐れもある。大阪の国立国際美術館では「韓国語に関しては研究補佐員の韓国人に内容をチェックしてもらっている」(安来氏)というが、翻訳の精度を保つ仕組みをどう構築するか。美術館、博物館には解説を多言語化するだけではなく、内容の質を高める工夫も求められている。
(文化部 村上由樹)
[日本経済新聞夕刊2017年9月19日付]
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