一輪車乗りこなす子どもに対抗心 落車に負けず練習
スポーツの秋。何か始めたいと思いついたのは一輪車。記者(29)は乗れないが、今どきの小学生はすいすい乗りこなすという。実は日本はまれに見る一輪車大国。負けじと挑戦した。
まずは歴史から。公益社団法人「日本一輪車協会」の専務理事、菅野耕自さんによると、1910年に米国から曲芸として入ってきた。スポーツとして広まり始めたのは60年代後半だ。78年に協会の前身の任意団体が発足。競技大会や講習会を実施した。
80年代に入り、協会が「体力つくり推進校」などに一輪車の寄贈を始め、小学校で登場。89年の学習指導要領改訂時に、一輪車を教材で例示すると決定。導入する小学校が増えた。
現在一輪車は小学校の約9割に普及した。81年当時、小学1年だった人は今42歳。普及時期を考慮すると、現在の30代以下の世代では一輪車に乗れる人が増えそうだ。
記者の小学校には一輪車がなかった。中学時代、6歳年下の妹がすいすい乗りこなす姿がうらやましかった。この悔しさを晴らしたい。「大人だと2週間から1カ月くらい練習すれば乗れますよ」と菅野さん。
挑戦心に火がついた。向かったのは、一輪車の製造販売を手掛けるミズ(東京・渋谷)。社長の伊藤賢一さんによると「助言をもらったほうが上達が早い。近くの一輪車クラブに出向くのがオススメ」。とはいえDVDや教則本を基に1人で練習するのも十分可能だ。地面が平らで胸の高さに手すりがある場所が最適。川沿いなどの柵やフェンスなどもよい。転倒が心配ならヘルメットがあれば安心だ。
「早速試してみますか」との伊藤さんの声かけで、近くの路地で初挑戦した。ポイントは前を向き、背筋を真っすぐにすること。サドルに乗ると「ひぇー」。視点が高くなり恐怖心がわき上がる。
伊藤さんの手をつかみながらペダルに足をかけて乗るものの、体を真っすぐに保てず、体勢を崩してしまう。とにかく怖い。「子どもは転ぶのが怖くないから上達が早いんですよ」と伊藤さんは笑う。
10分ほどの練習でもう汗だくに。でももっと練習したい。東京都品川区を中心に活動する一輪車クラブ「UNICYCLE CLUB FUJIMIDAI」を訪ねた。
「無理に前に進もうとせず、まずはその場にとどまれるようにして」。指導役の神代洋一さんに助言をもらう。前へ前へ、と気持ちが先走るとバランスを崩すという。
まずはペダルを前後に動かしながら、その場にとどまる練習を続ける。体重の乗せ方のコツがつかめてきた。試しに手すりから手を離して進むと、バランスを崩し一気に転落。思い切り手すりに腕を打ち付け、倒れた一輪車のペダルがすねをえぐる。痛い。
姿勢を保ち、こぐのを同時に行うのは案外難しい。2時間で落車すること100回以上。満身創痍(そうい)で練習を続けた結果、壁をつたえば3メートルは進めるように。
翌日起きると内ももと腕のあざ、足の傷にびっくり。筋肉痛でベッドから起き上がるのもつらかった。でもここで負けるわけにはいかない。
2日後、昭和記念公園(東京都)へ妹と出向いた。一輪車がレンタルでき、手すりつきの専用練習場もある。初心者にはうってつけだ。
約1時間、ペダルを半回転するごとに手すりをつかめば真っすぐ進めるまでになった。「乗れた」とは言えないが、自分の中では合格だ。
妹に乗ってもらうと、十数年ぶりでも自在に乗り回す。以前は悔しくてたまらなかったその姿だが、その日は「練習すれば私もできそうだな」と少し誇らしい気持ちで見ることができた。物事が上達する喜びは、大人になるとなかなか感じられない。その分、喜びもひとしおだった。
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競技はレース・演技の2種類
スポーツとしての一輪車は競技種目がレースと演技の2種類ある。全日本大会のほか地区大会などがある。競技人口は約1万人で、4歳から75歳まで幅広い層が楽しむ。早さを競うレースは100メートルの短距離からマラソン、駅伝など。マラソンでは速いと約2時間で走りきるという。
音楽に合わせて踊る演技部門もソロ演技、ペア演技、グループ演技などの種目がある。採点競技で、審査のポイントは技術力や表現力、構成・振り付けなど6項目。一輪車から落ちる「落車」なしに演じきれば加点がある。
小学校にこれほど普及し、数百万人が乗れる国は珍しいという。潜在的な競技人口も多そうで今後、人気競技になる可能性もある。
(若山友佳)
[NIKKEIプラス1 2017年9月16日付]
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