エンタメ!

映画セレクション

『散歩する侵略者』 異世界から日常を撹拌

2017/9/8付 日本経済新聞 夕刊

 「ダゲレオタイプの女」に続く黒沢清監督の新作である。監督の作品には異世界からの侵犯者が日常を撹拌(かくはん)する世界が多いが、今回も劇作家の前川知大の戯曲を原作に、異世界からの侵略者による謎めいた攻撃を描いている。

東京・新宿の新宿ピカデリーほかで公開(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会

 仲が冷え切っている真治(松田龍平)と鳴海(長澤まさみ)の夫婦。真治は行方知れずとなり、数日後に戻ってくると、なぜか穏やかで優しくなっていた。真治は毎日散歩に出かけ、戸惑う鳴海に地球を侵略にきたと告げる。

 一方、ジャーナリストの桜井(長谷川博己)は一家惨殺事件を取材する中、天野という若者と女子高生のあきらと知り合うが、2人から人類を侵略にきたと告げられる。2人には案内人として桜井が必要であり、桜井は疑いつつも2人を取材することを決める。

 物語はこの2つの流れが平行して展開するが、真治・天野・あきらの3人は侵略のための調査員という設定。面白いのは、その調査が人間の持つ家族や自分といった「概念」を拾い集めることだ。そして概念を奪われた人間からはその概念が抜け落ちてしまうという着想は奇抜である。

 やがて街中が混乱に陥る中、政府関係者を名乗る謎の集団が侵略者の抹殺を図る。夫への愛を再確認した鳴海は真治を連れて遠くに逃げようとするが、謎の集団に襲撃された桜井には天野がのりうつり侵略のゴーサインを発信する。

 侵略はCGによる天空から火の玉が降り注ぐシーンで示されるが、侵略者がどこからきたのか、なぜ侵略するのか、ということには触れられていない。映画の主軸は侵略にはなく真治と鳴海の愛にあるからだ。

 人間の顔をした侵略者。映画はSFサスペンスの外観を見せているとはいえ、演出はあくまで人間ドラマとしてある。この点にこそ黒沢映画の魅力がある。2時間9分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2017年9月8日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

エンタメ!新着記事

ALL CHANNEL