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『三度目の殺人』 心の奥深さ透かし見せる

2017/9/8付 日本経済新聞 夕刊

 前作『海よりもまだ深く』で大らかなユーモアを交えて人間の愛おしさを称えた是枝裕和監督だが、本作『三度目の殺人』では一転して、緊迫感あふれる法廷ドラマをくり広げる。裁判ものというジャンルに新境地を切り開く傑作だ。

東京・有楽町のTOHOシネマズ スカラ座ほかで公開(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

 弁護士の重盛(福山雅治)は、同僚の摂津(吉田鋼太郎)から殺人事件をひき継ぐ。容疑者の三隅(役所広司)が簡単に供述を変えるので、摂津は音を上げたのだ。三隅は、食品加工工場の社長を殺したとして起訴されたが、30年前にも強盗殺人の前科があった。今回有罪なら死刑は確実だ。

 そんなおり、三隅は週刊誌に、社長の奥さんの美津江(斉藤由貴)に頼まれて保険金目当てで社長を殺したのだ、と告白した。

 重盛は助手の川島(満島真之介)と事件の再調査にあたる。すると、三隅の家に、脚の不自由な娘が出入りしていたとの情報を掴(つか)む。調べると、それは社長と美津江の娘・咲江(広瀬すず)だった。被害者の娘と容疑者の接点を探る重盛のもとに、咲江が訪れ、驚くべき事実を明かす……。

 黒澤明の『羅生門』以来、真実の相対性というテーマを掲げる裁判ものの映画は少なくない。しかし、本作は、あくまで重盛という一人の人間の視点から殺人事件を見つめる。普通の人間には真実は簡単には見えない。にもかかわらず、裁判は神の視点に立って事件を裁こうとする。法廷を戦術の駆け引きの場と考えるニヒリストの重盛が、次第に裁判という制度そのものの矛盾に目覚めていく過程が説得力豊かに示される。

 推理小説のような明らかな謎解きは行われないが、それがまったくごまかしではなく、欲求不満を感じさせない。三隅と咲江だけが知る真実を示唆して、人間の心の奥深さを透かし見せる。役者たちの健闘、静謐(せいひつ)で力のこもった美術と映像の共同作業も素晴らしい。2時間4分。

★★★★★

(映画評論家 中条 省平)

[日本経済新聞夕刊2017年9月8日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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