がんばっぺ福島スイーツ ゼリーやポテトなどに舌鼓

ゼリーの家のゼリー。同じ型からカラフルなゼリーが生まれる
ゼリーの家のゼリー。同じ型からカラフルなゼリーが生まれる

2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故が食品業界を直撃した福島県で、東日本大震災後に評価を高め、土産品として注目度を増しているスイーツがある。「量より質」で、原発事故による風評を跳ね返し、福島のイメージ向上にもひと役買っている。

ゼリーの家(いわき市)が同じ型から生み出すカラフルな16種類のゼリーは、食べるのが少しもったいない。午前9時の開店を待たずに行列ができ、売り切れのため昼前に営業を終える日も少なくない。ゼラチン100%で、果汁の入ったシロップを使用。みずみずしい外見と、かための食感が特徴だ。

店主の杉山洋子さん(68)が1988年に開店した。入院中に母の手作りゼリーに元気づけられ独自に製法を研究したという。一緒に経営にあたる長男の修一さん(40)は「原発事故直後は材料や水について問い合わせが増えたが、購入客がSNS(交流サイト)などで『大丈夫』と発信してくれた」と振り返る。

通販サイトは開設しているが電話での注文は受け付けていない。8月上旬、岩手県滝沢市から家族と訪れた女性(43)は「SNSに投稿したくなるほどかわいい」とうれしそうだった。

ダイオー(福島市)の和風スイートポテト「いもくり佐太郎」は土産菓子の新定番になりつつある。震災から2年後の2013年、4年に1度の全国菓子大博覧会で最高賞の「名誉総裁賞」を受けた。

焼いたサツマイモ「ベニアズマ」と栗、白あんなどでつくる。あっさりした甘みで、お茶にもコーヒーにも合う。品名は芋と栗で山の神の心を鎮めた民話の主人公にちなむ。原則、県外の売り場には置かない方針で、佐藤卓宏社長(35)は「地元でおらがまちの菓子と思ってもらうのが一番。福島に買いに来てもらえたらうれしい」と語る。

電子部品メーカーが生んだスイーツとして有名になったのが向山製作所(大玉村)の生キャラメル。発注元の業績に大きく左右される下請けから脱却しようと織田金也社長(52)自ら調理師学校に通い、開発を始めた。09年に発売。国際線ファーストクラスに採用された直後に震災が発生し頓挫。12年にフランスの菓子の祭典「サロン・デュ・ショコラ・パリ」に出展し、好評を博したのが飛躍のきっかけとなった。

仙台市や福島市、郡山市などに店舗を構え、プリンなども販売するが、一粒一粒を手で包む生キャラメルへの思い入れが強い。織田社長は「コストを考えると大量生産はできないが、震災を乗り越えた生キャラメルとして100年後の福島に届けたい」と口にする。

富久栄珈琲のビーントゥバーチョコレートはカカオとオーガニックシュガーのみを使っている

世界の産地を巡ってカカオ豆を調達し、東北初の「ビーントゥバーチョコレート」を売り出したのは富久栄珈琲(郡山市)。「ビーントゥバー」とはひとつの工房で豆の選別、焙煎(ばいせん)から製造まで一貫して手がけたもの。豆とオーガニックシュガーのみを使っており、ベトナムやコスタリカなど産地ごとに酸味などが異なるカカオそのものの味を楽しめる。

コーヒー豆と産地が重なり、焙煎技術も生かせるため、中島茂代表(43)が「産地別のチョコをつくったら面白い」と挑戦。16年10月に発売すると、すぐに百貨店のバイヤーらの目に留まり、今年2月には仙台三越(仙台市)の催事に出店し、4月にはJR郡山駅に近いうすい百貨店(郡山市)に常設店を開いた。

素朴な形に貴重な鬼クルミを包んだ長門屋本店の「香木実」。鈴木会長が生み出した

長門屋本店(会津若松市)の和菓子「香木実(かぐのきのみ)」は15年に復興庁などの「世界にも通用する究極のお土産」に認定された。会津地方で採れる野生の鬼くるみの香りと素朴な甘みが、かむほどに口に広がる。16年の伊勢志摩サミットでも各国首脳らに提供された。品薄が続き、今も予約販売が中心だ。

鈴木隆雄会長(60)が30年余り前に金沢市で会津の鬼くるみを使ったつくだ煮を見つけたのが開発のきっかけ。「こんなに良い材料が会津にあるのに気づかなかった。菓子屋として納得いかなかった」と一念発起。喜多方市の加工会社と組んで商品化につなげた。

10年ほど前、京都市内の古寺の年中行事に出す菓子として注文を受けた。京菓子が有名な土地で、あえて香木実を選んだ理由を聞くと「虚飾がないから」とのこと。鈴木さんは「会津人として涙が出るほど、うれしかった」という。

<マメ知識>原発事故の影響続く
福島県には土産菓子の3大名物がある。「柏屋の薄皮饅頭(まんじゅう)」「三万石のままどおる」「かんのやの家伝ゆべし」だ。JR福島駅などの売店には特設コーナーもある。そうした定番商品にも原発事故の影響が続いている。柏屋(郡山市)では「県外客が戻り切らず、震災前の売り上げを回復できていない」(本名善兵衛社長)。
イメージ回復は福島の菓子店共通の願い。25日には若手経営者が協力して全国菓子大博覧会の報告会を開くなど、県内各社が結束する動きも出ている。

(郡山支局長 天野豊文)

[日本経済新聞夕刊2017年8月29日付]