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高齢者の運転状況に関する調査が進んでいる(高齢者安全運転支援研究会、神奈川県座間市)

高齢者の運転状況に関する調査が進んでいる(高齢者安全運転支援研究会、神奈川県座間市)

ブレーキの踏み間違いなど高齢ドライバーが起こす交通事故がよくニュースになっているわ。どうしたら防ぐことができるの。国は事故を減らすために、どんな対策を考えているのかな。

高齢ドライバーの事故について、伊藤真由美さん(45)と中村彩さん(27)が坂口祐一編集委員に話を聞いた。

――高齢ドライバーの事故が目立っていますね。

「2016年1年間に交通事故で亡くなった人は3904人で、統計がある1948年以降で3番目の少なさでした。16年より少ないのは、終戦直後で車が一般に普及していなかった48年と49年だけです。死亡事故全体の数が大きく減る中、75歳以上が運転していて起きた死亡事故の割合は13.5%で増加傾向にあります。免許を持つ人10万人当たりの死亡事故件数は、75歳未満が3.8件なのに対し、75歳以上は8.9件と2倍以上多くなっています」

「事故原因では、ハンドルやブレーキの操作ミスが27.7%、漫然とした運転が23.1%、安全の不確認が21.8%と上位を占めました」

――国や警察はどんな対策を打っているのですか。

「高齢者に免許の自主返納を促すほか、運転免許を更新する際、70歳以上の人に高齢者講習を義務付けています。道路交通法の改正で、17年3月からは75歳以上の人は免許の更新時に加え、信号無視などの交通違反をした際に認知機能の検査が義務付けられました。検査で認知症の疑いがあれば、医師の診断が必要となります」

「さらに、80歳以上で交通違反をしたことがあるなど事故を起こすリスクが高い人を対象に、免許の更新時に実際に車を運転してもらい、問題がないか見極めるという案を検討しています」

「免許制度は国によって様々です。英国では免許を一度取れば70歳まで原則、更新の必要はありません。夜間は運転できなかったり、運転できる場所を自宅周辺に限ったりする限定免許を設ける国もありますが、日本の高齢者の多くは日中、自宅近くで事故を起こしており、大きな効果は期待できないと思います」

――運転できないと生活に困る高齢者が出てくるのでは。

「少子高齢化の中、過疎地など車がないと買い物にも病院にも行けない地域が増えています。そのため国は運転できなくなる人への対応について検討しています。乗り合いタクシーの普及や貨物と人を両方運ぶサービスの導入といった案が考えられています」

――技術面でカバーできないのですか。

「究極的な解決策は完全な自動運転車の登場ですが、実現にはまだ時間がかかるでしょう。たとえば自動ブレーキはすでに実用化されていますが、搭載した新車の割合は5割ほどです。こうした装置を、いま乗っている車に後付けしやすくしたり、自動ブレーキ付きに買い替えた場合に補助金を出したりすることを検討してもよいのではないでしょうか。高齢者向けに安全対策を強化した自動車をつくるのも手です」

「国は17年から『安全運転サポート車』の普及啓発に乗り出しました。アクセルとブレーキの踏み間違い防止や車線の逸脱防止などといった安全装置を搭載した車の普及を官民で目指しています。20年までに自動ブレーキの新車搭載率を9割以上に引き上げるのが目標です。その一環として、自動ブレーキなどの安全技術について国が一定の基準を満たした自動車を認定する制度を導入しようとしています。こうした車に限って運転を認める限定免許も創設する方針です」

「ニュースで高齢ドライバーの事故が大きく取り上げられる一方で、16年、交通事故で亡くなった人のうち、65歳以上の割合は54.8%と過去最高でした。半数近くは歩行中に事故に遭っています。加害者としてだけでなく被害者としても高齢者の割合は増えています。安全運転を支援する技術が普及すれば、年齢に関係なく、どのような人が運転し、どのようなトラブルが起きたとしても事故の抑止や被害軽減が期待できる、より安全で、やさしい車社会の実現につながるはずです」

ちょっとウンチク

事故が問う車優先社会

身近な生活道路で、交通弱者が車にひかれる――。これが日本の交通事故の大きな特徴だ。事故死者数全体に占める「歩行中」「自転車乗用中」の死者の割合は、米英などでは17~30%だが、日本では5割を占めている。住宅地に通過車両が入り込む。速度を十分落とさない。車を優先したような道路の環境。こうしたことが背景にある。

歩行中の死傷者数を年齢別にみると、人口当たりでは「7歳」が突出して多い。小学校に通い始めた子どもたちを、繰り返し悲劇が襲っている。自転車乗用中で最も多いのは「16歳」。通学などで自転車を使い始める時期だ。私たちの社会は何に価値を置いているのか。生活道路で多発する事故がそう問いかけている。

(編集委員 坂口祐一)

今回のニッキィ


伊藤 真由美さん 主婦。バイクでのツーリングが趣味で夏には夫婦でキャンプ道具を持って北海道を1周することも。「自然を体全体で感じられるので、とても気持ちがいいです」

中村 彩さん 金融関連会社勤務。空港巡りが趣味で特に羽田空港にはよく足を運ぶ。「飛行機が飛び立つ姿を見るのが大好き。旅行に行く時のワクワク感が味わえるのも魅力です」
[日本経済新聞夕刊2017年8月28日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は9月11日の予定です。

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