まさか私が作家に? ツイッターやブログ発でデビュー
SNS(交流サイト)やブログが注目されて文壇デビューするなど、小説家になる道筋が多様化している。版元も有望新人の売り出しには積極的で、表紙絵を一般公募する例も見られる。
ツイッターでの叙情的なつぶやきが人気を集め、フォロワーが10万人を超える燃え殻さん。「140文字の文学者」とも呼ばれる。6月末に初めての小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」(新潮社)が刊行された。
断り切れず執筆
「(社会問題などに基づいてネタを作る)深夜ラジオっぽい雰囲気でツイッターに投稿していたら(コピーライターの)糸井重里さんら有名な方もフォローしてくれた。(作家だった)樋口毅宏さんからは『小説を書くべきだ』と言われ、デジタルコンテンツ配信会社cakesの編集者を紹介された」と燃え殻さん。
小説執筆など考えていなかったが「断り切れず」取り組んだのがデビュー作。昨年2月から8月までcakesで配信された。43歳の「ボク」がSNSで元の彼女の名前を目にしたのをきっかけに「自分より大切な存在だった」彼女と過ごした若い日々を思い出す。
「(小説の舞台である)1990年代後半は僕自身、ノストラダムスの予言が当たって、地球が滅亡してもいいやぐらいの気持ちだった。そんなときに自分の未来を肯定してくれる女性は蜘蛛(くも)の糸のような存在。そうした地味だけど忘れられない人は誰にでもいると思います」
これが、まだ珍しい「ツイッター発の小説家」誕生につながった。発行部数は7万4千部とデビュー作としては異例のヒットだ。
インターネットの日記、ブログが注目を集める人気ブロガーのはあちゅうさんも、講談社の文芸誌「群像」2月号で短編3編を発表、小説家デビューした。
そのうちの一編「世界が終わる前に」は香港大学に留学した日本人女性が主人公。人気者だが虚言癖のある台湾系米国人と付き合い、世界の見え方の違いを感じる。「ブログを書いていると、私の意見を頭ごなしに否定する人がいる。それはそれで正しいのかもしれないが、他の人の考え方を認めてくれてもいいのになとも思う。そんな多様性への期待を込めました」
表紙絵を公募
9月にはこれらに4編を加え、計7編を収めた単行本「通りすがりのあなた」(講談社)が刊行される。はあちゅうさんはブログの読者150人に見本を読んでもらい、ともに販売戦略を練る予定。「紙とネットをつなぐような存在を目指したい」と意気込む。
表紙イラストを一般公募したのは、7月刊行の石田香織さんのデビュー小説「きょうの日は、さようなら」(河出書房新社)。装丁家の鈴木成一さん、文芸評論家の斎藤美奈子さんが選考委員を務め、80点の応募の中からおぎわら朋弥さんのイラストが選ばれた。
「18歳で阪神大震災を経験した後、演出家の森田雄三さんのワークショップに参加した。デビュー作は(体を動かしながら文章を作る)森田さんの『身体(からだ)文学』という手法から生まれたものです。『手触りのないものは書くな』との教えを大事にしました」と石田さんは話す。
主人公は幼い頃に母を亡くした「キョウコ」。小学2年の時に父が再婚、相手の「スミレ」には1歳上の連れ子「キョウスケ」がいた。4人で過ごす日々は幸せなものだったが、数年後にスミレとキョウスケは姿を消してしまう。
2人の子供のいるシングルマザーである石田さんは「子育ての合間にスマホで書いた」という。担当編集者は「(デビュー作は)いい作品であってもなかなか読者に届きにくい。少しでも話題になればと思って、イラストのコンペを考えた」と狙いを語る。
(編集委員 中野稔)
[日本経済新聞夕刊2017年8月15日付]
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