大災害への備えは、必要だとわかってはいても難しい。でも、実は家庭で手軽に避難体験をしたり、簡単に防災情報を手に入れたりできる。まずは知る。知れば備えは付いてくる。
家庭で手軽に避難体験ができると聞いて、危機管理教育研究所の代表、国崎信江さんの自宅を訪ねた。名付けて「おうちキャンプ」=写真。大災害の時に水道、電気、ガスが止まったと想定し、家族で一日室内で過ごす試みだ。
リビングにワンタッチで開く簡易型のテントを張り、水や携帯ガスコンロ、キャンプ用の食器類に缶詰やそうめんなどの災害食を用意して、家族が生活する空間をつくる。「実際にキャンプにでかけて屋外で避難体験をするのは大変。自宅ならいつでもできる。夏休みなどに子どもと一緒に体験することを勧めている」と国崎さん。
実際に避難の疑似体験をやると「災害時に何が役に立つか、我が家に何が足りないのかがわかる」(国崎さん)という。例えば懐中電灯は片手がふさがるため、両手が使えるヘッドライトをヘルメットに付けた方が便利だ。電池式のライトやラジオは電池がなかったり、液だれして使えなかったりすることがある。防災グッズを押し入れに用意しているだけではわからないことが多い。手回しで充電できるラジオ付きランタンは2000円前後で売っている。
自宅使えても寝袋は重要
災害時に、幸い自宅で過ごせる場合、寝袋は必要ないと考えがちだ。しかし、ベッドやふとんにガラスの破片が散らばることがある。寝袋があれば安全に寝られる。食事ではそうめんの使い勝手がいい。長持ちする上に2~3分でゆであがるのですぐに食べられるしガスボンベの消費も防げる。疑似体験で足りないモノを買いそろえることで、その家の効率的で効果的な備えができるわけだ。
実際に体験した3男の吉貴君(11)は「日ごろから経験していれば地震が来ても慌てないと思う。楽しみながらできるのもいい」と笑顔で話してくれた。
災害時は情報収集が重要になる。国崎さんはスマートフォン(スマホ)のフォルダーに防災関係のアプリをまとめている。例えば自分の家の近くにある避難施設がすぐわかる「避難所ガイド」、災害用伝言板などがすぐ使える「ドコモ災害用キット」やNHKラジオなどだ。二次災害を防ぐためにも災害時の気象情報や生活支援の情報は欠かせない。国崎さんは「色々な防災アプリがあること自体知らない人が多いが、お金がかからずすぐに役立つのでお年寄りにもお勧め」と話す。
揺れや震源 データで分かる
実は、地震に関するリアルタイムの正確な情報もパソコンやスマホさえあれば簡単に手に入る。茨城県つくば市にある防災科学技術研究所(NIED)が様々なデータを一般向けに提供しているのだ。
NIEDのホームページから「強震モニタ」を開くと、現在、どこでどの程度の地震が起きているかが動画で確認できる。1日に日本で起きる地震は500~900。全国約1000カ所の強震計が観測する生の揺れを画面に伝える。昨年4月の熊本地震では、震源の熊本の観測点が赤く染まり、中四国、近畿地方と離れるに従って黄色から黄緑、緑、青と揺れが弱くなっていく様子が確認できた。
NIEDの「震源ちゃん」というページからは立体模型が簡単に作れる。プリントアウトした紙を折り紙のように組み立て、北海道から九州まで5個を合わせれば過去1年間の地震がどの深さで起きたのかわかる。地震津波火山ネットワークセンター長の青井真さんは「『熊本で大地震が起きるなんて』という声を多く聞きショックだった。震源ちゃんを見れば地震の可能性は確認できた」と話す。
内閣府の防災情報のページでは、木造か鉄筋かの違いで自宅がどう揺れるかが動画で確認できる「揺れ方シミュレーション」や、自分の部屋の大きさや家具の配置を画面で再現して部屋のどこが危険かが赤色で表示される「我が部屋チェック」など、何をどう備えればいいかが簡単にわかる情報が手に入る。
NIEDの青井さんは「ほんの少しの備えでも大勢の人がすることが大事。初めの一歩を楽しみながらやってもらえば、その分だけ災害は確実に減ります」と話している。
(大久保潤)
[NIKKEIプラス1 2017年8月12日付]