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落語、地方が熱い 寄席の定例化やシリーズもの相次ぐ

2017/8/9 日本経済新聞 夕刊

仙台市のホールで毎月開く「魅知国仙台寄席」

 落語ブームが地方都市に本格的に広がっている。もともとの拠点である東京と大阪以外の各地で落語会が盛況。定例化やシリーズものなど、これまでになかった企画が目白押しだ。

 仙台駅から歩いて10分ほどの人通りの多いアーケード街に、落語会に通行人を呼び込む声が響く。毎月原則第一土曜日に開く「魅知国(みちのく)仙台寄席」だ。2010年6月にスタートして以来、東日本大震災のあった月も休まず開催し、今月で91回目を迎えた。三遊亭遊三の一門で東北弁落語を手掛ける六華亭遊花をレギュラー出演者に、落語芸術協会所属の真打ち、二ツ目ら毎回5組が出演。約150席のホールが常時100~120人の観客で埋まる。

 「最近は通りすがりに入ってくれるお客さんが十数人はいる。落語を生で聞きたいという関心の高まりを感じる」。こう話すのは同協会仙台事務所長の白津守康氏。経営するイベント会社で魅知国仙台寄席を始めたところ同協会の目に留まり、同協会初の地方事務所長に就いて落語会を続けてきた。震災後は被災地を含め東北の他県でも落語会を開いている。

 月例公演の好調を受けて昨年からは年2回、魅知国寄席の東京公演を開催している。地方発の落語会が東京で定期公演を開くのは異例だ。また同事務所は来春、常設の寄席「花座」をオープンする予定。仙台市青葉区の繁華街にあるオフィスを改装し、約50席の寄席を新設。白津氏は「週末を中心に月15日は落語会を開き、東北に寄席文化を根付かせたい」と語る。

■女性3人が運営

 東京を中心とした落語ブームが続いているが、テレビ番組やポッドキャスト(音声配信)を通じてその魅力が全国に拡散。地方の中核都市で開かれる落語会の数が増えている。

 東西の人気落語家が一堂に会する「博多・天神落語まつり」が今秋11年目を迎える福岡市でも、大小の落語会が相次ぎ開催されている。10年前には月1、2件だった会が、いまでは20件近く開かれるようになった。こうした会を企画しているのは地元の舞台制作会社や落語ファンの個人らだ。

 なかでも人気を集めているのが落語ファンの女性3人が中心となって運営する「美案寄席」。11年にスタートし、三遊亭円楽や笑福亭鶴瓶、柳家花緑らの会を現在は年20回程度開いている。主催するWMKエージェンシーの渡辺加奈子氏は「当初はチラシを手配りしてなんとか集客していた」と振り返るが、最近は軒並み満席。100~200席の小規模な会場を使い、観客が演者を身近に感じられるようにしている。

福岡市で6カ月連続公演に挑む柳家三三(同市の森本能舞台)=松竹 修一撮影

 今年5月からは地方では珍しいシリーズものの公演を始めた。実力派の柳家三三による6カ月連続独演会「たびちどり」だ。江戸から明治時代にかけて活躍した柳家一門の先祖で、初代の談洲楼燕枝(だんしゅうろうえんし)が創作した人情噺(ばなし)の長編「嶋鵆沖白浪(しまちどりおきつしらなみ)」を全12話に再構成し、毎月2話ずつ披露。三三は「『あれ面白かったよね』ってお客さんが思い出してくれるような会にしたい」と意気込んでいる。大阪や名古屋でも上演されている。

■常設の動き活発化

 一昨年9月に名古屋市で常設の寄席「大須演芸場」が再開したことで、東海地方でもほぼ毎日、落語会が開かれるようになった。同地方の落語会情報誌「東海落語往来」によると、10年前には月十数件だった会の数は現在、多い月では100に迫る。神戸では来年7月をめどに常設の寄席が開設される見通し。大阪市北区に06年、半世紀ぶりに定席として復活した天満天神繁昌亭に続く関西で2つめの寄席となる。

 今春開場15周年を迎えた横浜にぎわい座(横浜市)では、東西のネタを聞き比べる特別公演などを開催。同座の館長を務める落語芸術協会の桂歌丸会長は「お客様に真の笑いを提供でき、落語家が腕をみがく道場となるのが寄席。各地の寄席からそれぞれの名人が出てくるようになってもらいたい」と話している。

(文化部 小山雄嗣)

[日本経済新聞夕刊2017年8月7日付]

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