沖縄は年中マグロ天国 生鮮水揚げ4位、刺し身で丼で
沖縄といえば、豚肉を中心に肉食文化のイメージが強い。肉類の陰で旗色の悪い魚だが、孤軍奮闘しているのがマグロである。沖縄県で水揚げされるマグロは冷凍ではなく、生鮮ものがほとんど。生鮮マグロの水揚げ量は全国4位(2015年)で、年間を通していつでも生のマグロが揚がるのが他県にない特徴だ。漁港近くで自慢のマグロ料理を出す店も多い。
7月上旬、泊漁港に面した那覇市の泊魚市場。丸々とした生鮮マグロが数列、数十メートルも並ぶ光景は壮観だ。まだ夜も明けぬ午前5時、鐘の合図と共に競りが始まる。仲買人によって、1時間弱で全てのマグロが競り落とされた。「平均すれば毎日20~30トンは競りに出る」と、沖縄鮮魚卸流通協同組合の国吉斉理事長(60)は話す。
沖縄で水揚げされるマグロは沖縄近海や南方を漁場とする。種類により捕れる時期が異なり、クロマグロとキハダマグロは4~7月ごろ、メバチマグロは8月~翌年3月ごろ、ビンナガマグロは11月~翌年4月ごろ。一年中旬が巡る。
周辺には水揚げしたばかりのマグロを手早くさばき、看板料理にする店も多い。市場の隣にある商業施設、泊いゆまち。仲卸業者が市場で仕入れた魚介類を直接小売りする店舗などが24軒入る。仲買業者のカネヤマ水産が経営する食堂、まぐろや本舗には、様々なマグロ丼メニューがそろう。
使うマグロは市場で競り落とし、泊いゆまち内の解体場でさばいたばかりのもの。新鮮この上ない。赤嶺学店長(43)は「あまりいじらず手早く調理する」ことを心がける。触りすぎるとせっかくの鮮やかな色が変わってしまうからだ。
本まぐろ丼はクロマグロが捕れる時期だけの期間限定メニュー。白飯か酢飯の上に赤身と中トロが載る。マグロの味の濃さと、わずかに感じる甘みは生ならではだろう。開店は競り開始1時間後の早朝6時。観光客が朝ご飯としてその時間から食べに来るという。
泊漁港のすぐ近く、離島への船が発着する泊港に向かう。泊ふ頭にある旅客ターミナルビル「とまりん」2階では、海鮮料理店、まぐろ食堂が営業している。マグロなど魚の仕入れ先は、もちろん泊いゆまちだ。
看板メニューはまぐろ食堂定食。中落ち丼に刺し身、ステーキ、天ぷらなどマグロ尽くしだ。山城洋一料理長(60)によると基本は漁師料理で、中落ち丼は温かいご飯と冷たいマグロの組み合わせ。漁師が船上で炊いたご飯に、釣ったマグロをさばいて載せたものをイメージする。
料理長が一言。「ゆんたく(おしゃべり)ばかりしているとツナ缶になるよ」。柔らかくとろけるようなマグロのうまさが、熱で変わらないうちに味わってほしいという。ステーキもすぐに硬くなるので早く食べた方がいい。天ぷらは沖縄らしくウスターソースで。
生鮮マグロは県内各地の漁港に揚がる。本島南部の海人(うみんちゅ)の街、糸満市の糸満漁港もその一つ。市内の鮮魚店オーナーが店の2階で営む海鮮居酒屋、たらじさびらは、鮮魚店が仕入れた県産の魚を主に使う。マグロは糸満漁港や泊いゆまちから入ったものだ。
新鮮な刺し身が自慢というが、マグロを1匹丸ごと買い付けることでできる、珍しい部位の料理も味わいたい。まずビンナガマグロの兜(かぶと)焼き。塩、コショウをしてオーブンで40分焼いた豪快な一品だ。脳天、ホオ、カマなど部位によって肉質が異なる。総じて脂がのり、パサつき感はない。
目玉煮付けはトロトロ、テール煮付けはもっちりしてコラーゲンたっぷり。あぶりホオ肉の食感は牛のタタキのようだ。大城豊彦料理長(58)は「こうした部位は捨てることもあるが、もったいない。いろんな味わいを楽しんでほしい」。
沖縄県は6年前から、仲買人や漁業者と「沖縄美ら海まぐろ」のブランド化に取り組む。はえ縄や一本釣りで捕り、手早く丁寧な処理で高い鮮度を保ち、泊漁港に水揚げされた生鮮マグロが対象。鮮度、色、艶・張り、脂ののりなどを仲買人が目利きしてブランド認定する。ロゴマークも作ってPR。16年度の出荷量は前年度比24.7%増の1670トンと順調に伸びている。
沖縄県のマグロ漁獲量のうち、約半分を那覇市(泊漁港)が占める。那覇市は2010年にマグロを「市の魚」に制定。県が「美ら海まぐろ」のブランド化を進める一方、同市は漁業者への支援や市内飲食店と連携した消費促進施策を展開する。
総務省の家計調査によると、那覇市の一世帯あたりの年間生鮮魚介類購入量(14~16年平均)は、都道府県庁所在地と政令指定都市の中で最下位だった。ところが、マグロ購入量は8位と健闘。県民にとって、マグロは特別な存在といえそうだ。
(那覇支局長 唐沢清)
[日本経済新聞夕刊2017年8月1日付]
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