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私写真、人妻ヌード… アラーキーの旅、個展相次ぐ

2017/7/31付

「写狂老人A」の会場で語る荒木経惟(東京都新宿区)

 半世紀を超えて旺盛な活動を続ける写真家、荒木経惟。今年は亡き妻を写した原点ともいえる作品展から、今最もひかれる空や花を見つめた新作まで、さまざまな個展を展開している。(記事後半に関連インタビューを掲載)

 ゴザを敷いた小舟に、丸くなって横たわる荒木の妻、陽子。目を閉じた横顔は眠っているようにも、死んでいるようにも見える。静けさが伝わってくるモノクロの1枚。荒木の1970年代の代表作である。

 「この写真、昔は三途(さんず)の川を渡っている様子に見えたけど、今は胎児に見えるね。生に向かっているところ。自分は体調が悪くて、今は常に背中に死に神がいるけど、写真を見ると、まだ生に向かっていると教えてもらえるよ」

 東京・恵比寿の東京都写真美術館で7月25日に始まった「荒木経惟 センチメンタルな旅 1971―2017―」(9月24日まで)の会場で、荒木は心境の変化を語った。「生と死が行ったり来たり。それが写っているのが写真だね」

妻・陽子との日々を写した写真集「センチメンタルな旅」(1971年)より(東京都写真美術館蔵)

 荒木にとって妻の陽子は、1960年代の出会いから90年に42歳で他界するまで、常に重要な被写体だった。71年に1000部限定の私家版として刊行した写真集「センチメンタルな旅」は、結婚式や新婚旅行で訪れた京都、福岡県の柳川での様子を写したもので、その後ベストセラーとなった。荒木は「私小説こそもっとも写真に近いと思っている」と序文を寄せ、自ら「私写真」と呼ぶ作品で評価を得た。

■妻 陽子に焦点

 写真美術館の展覧会では、この「陽子」に焦点を当て、従来の有名な作品に加え、未発表の結婚前の2人を写した約100点をポジフィルムの原板で展示。陽子の死後に荒木が撮り続けた空や愛猫なども合わせて1300点以上を集めた。

 展覧会名の「2017」に続く棒線には、旅がまだ続くという意味を込めた。一度は句点を付けて「旅を終わらせようかと思ったが、やりたいことがいっぱい出てきた」という。

 これまで500冊を超える写真集を出版し、多作で知られる荒木だが、今年は国内だけで10を超える個展を開催する。がんを患い、右目の視力を失う中で「周りがそろそろ荒木も終わりだろうと色々企画してくれた結果。でも、少なくとも東京オリンピックは(現役で)超えるね」と笑う。

 現在、東京ではもう一つ、個展を開催している。荒木が今、最も関心を寄せる写真を一覧できる「写狂老人A」(東京オペラシティアートギャラリー、9月3日まで)。タイトルは、70代半ばで自ら「画狂老人卍」と号し、老いてなお一層精力的に制作に励んだ江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎にちなんだ。今、心ひかれているという空や花の写真のほかに、ライフワークである「人妻のヌード」などの新作が並ぶ。

■「悟っちゃまずい」

 「空や花はやっぱりいいんだよ。だけど、こんな悟りに近いことをやってちゃまずいぞと思っている自分がいる」。バランスを取るように始めた人妻の撮影だが、「写真としてはこっちの方が上かもしれないよ」

 そこに写るのは年齢を重ね、ふくよかに脂肪を蓄えた女性の裸体だ。モデルのように均整の取れた体形を誇示する一般的なヌード写真とは違い、「普通は隠したいものもさらけ出す厚かましさと、一方で、人に撮られる恥じらい。そうした色々な要素が混じり合った女の凄(すご)みを暴き出すのが、アタシの写真」。

 既存のヌードに対して「女の美しさというのは、そういうものじゃないよということを示したい」という荒木。あるがままの姿を受け入れて新たな美を提示し続けようという姿勢は、今も変わらず挑戦的だ。

(日本経済新聞夕刊2017年7月31日付記事を再構成)

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