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日経実力病院調査

肺がん治療、内視鏡が普及 手術の安全性高まる 実力病院調査

2017/7/31付 日本経済新聞 朝刊

日本人のがんによる死因のトップである肺がん。喫煙者に多いが、たばこを吸わない人でも発症する。日本経済新聞社が実施した実力病院調査では、患者への負担が少ない手術方法として、内視鏡の一つ「胸腔(きょうくう)鏡」を活用した手術が普及していた。手術後の患者の生活を重視し、また手術の安全性を高めるべく、各病院が知恵を絞っていることも分かった。

姫路医療センターで行われている肺がんの完全鏡視下手術(兵庫県姫路市)

国立がん研究センターによると、2015年に肺がんで亡くなった男女は7万4378人。1985年に約2万9千人だったのが、95年には約4万6千人、2005年には約6万2千人と年々増えている。がん全体の5年生存率が男女計で6割を超える中、肺がんは男性が27.0%、女性が43.2%と、命を救うことが難しいがんの一つだ。

肺がんは「小細胞肺がん」と、腺がんなどを含む「非小細胞肺がん」に分かれる。手術を中心とする治療を受けるのは、非小細胞肺がんの中で、がんの進行度を4段階に分けたときに早期の1~2期に該当する患者。さらに進行した3A期の患者も手術が適用されることもある。

■画面見ながら操作

今回の調査で「手術あり」が600例と全国首位の国立がん研究センター中央病院(東京・中央)では、胸腔鏡によりモニターに映し出された臓器を見ながら手術に必要な詳細な情報を得つつ、切開部分からも臓器を確認できる「ハイブリッド・バッツ」と呼ぶ手術法に力を入れている。

手術のため患者の体を2カ所切開する。1つ目は7センチほど切開し、手術器具をそこから入れて、腫瘍を切除する。もう1つは5センチほど切ってカメラを入れる。呼吸器外科の渡辺俊一科長は、「約15年前、この手術方法で15~17センチ切っていた。経験を重ね、今は7センチほどになり、患者の負担は軽くなった」と話す。

胸腔鏡手術には、すべての操作をカメラで映し出されたモニター画面だけを見て行う「完全鏡視下手術」と呼ばれる方法もある。完全鏡視下手術の方が、切開部分は3センチ程度とさらに小さくて済むが、同病院はハイブリッド・バッツにこだわりをみせる。7センチの切開部分から指が入るので、触診で腫瘍を探せるのが理由の一つだ。

さらに、手術器具が扱いやすく、臓器や血管を縫ったり縛ったりしやすいので、切除部分からの空気漏れなどの処置がしやすい。空気などを外に出す「胸腔ドレーン」と呼ぶチューブを抜けないと入院日数が延びるので、「きちんと手術を終えられることを重視している」と渡辺科長は強調する。

■臓器を極力温存

患者の負担減は手術時の傷口を小さくすることだけではない。肺は右肺が3つ、左肺が2つの「肺葉」に分かれ、さらに複数の「区域」で構成する。同病院は区域切除に力を入れ、肺をなるべく温存する。「コンピューター断層撮影装置(CT)による診断画像から適否をいかに見極めるかが重要」(渡辺科長)と、画像診断部門との連携が同病院の強みだという。

一方、457例で全国で3番目に多い姫路医療センター(兵庫県姫路市)は、完全鏡視下手術に力を入れ、その割合は手術件数の9割弱に達する。

完全鏡視下手術はモニター画面だけを見て手術をするため安全性が懸念されてきた。思わぬ出血が起きると、モニター画面が真っ赤になって何も見えなくなる恐れがあるからだ。

だが、宮本好博・呼吸器センター部長は「独自に出血をコントロールする方法を編み出し、安全性はかなり向上した」と強調し、「出血で命を落とした患者はいない」と自信をみせる。宮本部長らは手術器具を使って、どこをどう押さえるなどすれば効果的に止血ができるかなど研究を重ね、その方法を確立。学術雑誌でも紹介され、他病院の手本になっている。

手術中の予期せぬ出血にも、慌てず、焦らず手術を続けられるからこそ、ベテラン医師の指導を受けながら若手医師が技術を身につけることができる。胸腔鏡手術は手術中の映像が残るので、定期的にカンファレンスを開いているが、「実地訓練を重視し、基本的には手術中に教える」(宮本部長)。若手医師が修業を積む場所としても注目を集めている。

調査の概要 調査は、症例数(診療実績)、医療の質や患者サービス(運営体制)、医療従事者の配置や医療機器などの設備(施設体制)の3つの視点で、病院選びの際に参考となる情報を、日経リサーチに依頼してインターネット上の公開データから抽出して実施した。
診療実績 厚生労働省が2017年2月に公開した15年4月~16年3月の退院患者数を症例数とした。対象は病名や手術方式で医療費を定額とするDPC制度を導入した1667病院のほか、導入準備中などを含め計3191病院。症例数の後の*は0~9例の誤差あり。「-」は0~9例。
運営体制 公益財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)が病院の依頼で医療の質や安全管理、患者サービスなどの項目を審査した結果を100点満点で換算。点数の後に*があるのは13年4月以降の評価方法「3rdG」で審査された病院で、各項目をS=4点、A=3点、B=2点、C=1点として合算、100点満点に換算した。
施設体制 医療従事者の配置や医療機器などについて、厚労省が定めた診療報酬施設基準を満たしたとして各病院が届け出た項目を比べた。16年10~12月時点での届出受理医療機関名簿を集計した。
<お詫び・訂正>
実力病院の表の「『手術なし』が50例以上」とあるのは『手術あり』の誤りでした。  (2017/7/31 16:54)

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