イラッ、その怒りが不調のもとに 最初の6秒こう凌ぐ
日常生活で誰にでも生じるイライラや怒り。小さなものでも、度重なれば心身不調や病気を招きかねない。うまく対応するコツを学んで乗り切ろう。
家族でドライブを楽しんでいるとき、急な渋滞に巻き込まれてイライラ。職場の同僚の無遠慮な言動についカッとなるが、何もいえない――「一つひとつはささいなイライラや怒りでも、放っておくと自分に跳ね返ってくることもある」と帝京大学医学部付属病院(東京・板橋)心療内科の中尾睦宏教授は話す。
性格と病気の関係を調べた研究では「競争的で怒りやすく、攻撃的で、過剰に活発な人」を"タイプA"に分類。そうでない人よりも自律神経のうち交感神経が活性化していて、心筋梗塞や狭心症などの心臓病にかかりやすいことが分かっている。
タイプA研究の第一人者でもある中尾教授は「イライラしている人の自律神経はタイプAに近い」と指摘する。危うい兆候に対処するには、日常生活で起きるイライラや怒りの衝動をうまくコントロールすることが重要だ。
最も簡単な方法は呼吸法だ。中尾教授は「イラっとしたら、ゆっくりと深く呼吸するだけで交感神経の働きが静まる」と話す。
呼吸で気持ちが落ち着いたら、1つの行為に集中することで高まる気持ちを鎮めよう。気持ちが落ち着く行動であれば何でもOK。中尾教授の場合は読書と散歩だそうだ。「友人とおしゃべりする」「運動する」「気持ちを日記に書く」など自分なりの方法を2つ見付けておくと、気分を切り替えることができ、延々と悩まなくて済むようになるという。
イライラや怒りのコントロール法として「アンガーマネジメント」という心理トレーニングもある。イライラと向き合うために「衝動」「思考」「行動」の3つに着目するのが特徴だ。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会(東京・港)の安藤俊介代表理事は「衝動のコントロール」の例として「怒りのピークが持続する6秒間をうまくやりすごす方法」を挙げる。カッとなって爆発しそうになったとき、頭の中で数字の100から3ずつ引いていくなど、怒りとは別の行動に集中することで冷静さを取り戻す。
イライラが起きる背後には、自分と他人の価値観の隔たりがある。自分が考える「こうあるべき」の範囲を広げるようにして、イライラが起きるきっかけを減らす「思考のコントロール」もテクニックの1つだ。
安藤代表理事によると「イライラの原因は一様ではない」。ストレスの種を「自分にとって重要か」、「自分で変えられるか」の2つの観点で分析して、4つに仕分けする(図参照)。それぞれに応じた行動をとることで「不要なイライラや怒り、不満を解消できる」(安藤代表理事)。これが「行動のコントロール」にあたる。
例えば「噂好きでおしゃべりな隣人が苦手」というストレス。さほど重要ではなく、相手をコントロールできないと判断するなら、放っておくという選択肢が浮かぶ。
一方で「仕事のノルマをプレッシャーに感じる」のは、重要かつ自分でコントロール可能といえる。上司や同僚のアドバイスを受けるなど、試行錯誤しながら前向きに取り組む、といった具合だ。
ただ、イライラや怒りがなかなか治まらない場合は要注意だ。中尾教授は「うつ病、不安症など病気の症状としてイライラが表れることもある」と指摘する。無理をせずに精神科や心療内科などを受診するといいだろう。
(ライター 荒川直樹)
[NIKKEIプラス1 2017年7月29日付]
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