伴侶失うつらさ 同士と癒やす動き、広がる
語り合う場を毎月開く組織、30~40代中心の団体も
配偶者を亡くした人が悲しみを癒やす「グリーフケア(悲嘆ケア)」の一環として、自助グループを結成する動きが広がっている。65歳以上で配偶者と死別した人は25年間で約5割増加。核家族が増え地域のつながりが薄れる中、同じ境遇の人と集うことで悲嘆からの回復につなげる。
「成長を実感できる日が必ず訪れます。一緒に前に進みましょう」。3年前に単身赴任中の夫を突然亡くした兵庫県宝塚市の藤脇美和子さん(53)は今月中旬、大阪市内で配偶者の葬儀を終えたばかりの12人を前に、自身の心境の変化や思いを語った。
葬儀大手の公益社が設立した遺族支援組織「ひだまりの会」の会合だ。食事も口にできず救急搬送されることもあったという藤脇さん。「いつか天国で再会する夫にいろんな報告ができるよう、今を精いっぱい生きる」と笑顔で話す姿に、参加者は涙をぬぐったりメモを取ったりしながら聞き入っていた。
同社は2003年、悲嘆ケアが専門の大学教授らと共同で同会を設立。有識者の講演会や体験談の語り合いの場を毎月提供する。立ち上げから関わるスタッフの泉原久美さん(56)は「地域のつながりが薄れ、核家族化が進む中で、遺族を支える人は減っている」と指摘する。総会員数は900人を超え、8割が伴侶を失った人という。
15年の国勢調査によると、65歳以上で配偶者と死別した人は約864万人で、1990年の約1.5倍に増加。団塊の世代が70代を迎えることから、今後も増え続けるとみられる。
大切な家族を亡くす経験は誰にとってもつらいもの。だが配偶者の場合、高齢なら「大往生で良かった」と言われるなど周囲が深刻に捉えないケースもある。
配偶者を亡くした人に特化した支援を行うのは「ほほえみネットワーク」(東京)だ。話し合いの会を毎月開催するほか、伴侶の死後間もない人が同じ境遇のメンバーと集い、つらい胸中を吐露する集中プログラムも設けている。
自身も12年前に夫を亡くした竹林治生理事(71)は「子供を亡くした悲しみを乗り越えようとしている夫婦の話を見聞きするだけで『自分にはもう伴侶がいない』とつらさが増すこともある」と話す。
14年に設立された「die-a-log LABO(ダイアログラボ)」(東京)は30~40代の比較的若い世代が中心。夫の死後、高齢者中心の自助団体に参加したこともあるという朱亀佳那子代表(48)は「悲しみは共有できるが、世代で課題は違う。『まだ若いからやり直しがきく』と言われることがつらかった」と振り返る。会合には医療関係者らも参加し、現役世代が直面する仕事や子育ての問題も話題に上る。
一方、「お一人様」向けのサービスが思わぬ支えの場になるケースもある。旅行大手のクラブツーリズム(東京)が15年、ツアー旅行に1人で参加する人向けに集合場所を下見するバスツアーを企画したところ、配偶者を亡くした女性らが多数参加。3年前に夫と死別した60代の女性は「ずっと夫に任せきりだった。1人では集合場所まで行くのも不安」と話したという。
ツアーを企画し、添乗員も務める河内良太さん(24)は「同じ境遇の人と出会える場にもなっている。つらい思いをした人たちが一歩前に踏み出す後押しになれば」と話す。
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配偶者亡くした人へは… 元気づけず 寄り添う
埼玉医科大国際医療センター(埼玉県日高市)で「遺族外来」を行う精神腫瘍科の大西秀樹教授に配偶者を失った人と接する際の対応について聞いた。
――周囲が気を付ける点は。
伴侶との死別は人生最大級の危機。大切な人を失ったことで落ち込んだ状態にあるのか、うつ状態なのか区別することが重要だ。悲しみやつらさは正常な反応だが、体がだるい、食欲の異常などの症状が出ている場合は早めに医療機関への受診を勧める。
――回復の過程は。
遺族は悲嘆を経て、新しい世界へ再適応していく。周囲の援助や故人との親密度で経過は大きく変わる。伴侶を亡くした場合は、相談相手を失うという問題点がある。
――どう見守ればよいか。
遺族は周囲の一言で大きく傷つくこともあり、注意が必要。「がんばってね」「あなたがしっかりしないと」などは追い詰めるため、言ってはいけない。心情は十人十色で、元気づけようと声を掛けるのが良いとは限らない。相手の話に耳を傾け、そばに寄り添い、時には抱きしめてあげることで癒やされる。
(藤井将太、加藤彰介)
[日本経済新聞夕刊2017年7月27日付]
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