『海辺の生と死』 神話のように激しい愛
映画化もされた「死の棘」で知られる作家、島尾敏雄と妻ミホの出会いのときをえがく。神話のように牧歌的で美しく、そしてはげしい愛の発生をとらえる映画である。原作は島尾ミホの「海辺の生と死」と島尾敏雄「島の果て」ほか、となっている。
島尾ミホは、奄美大島のとなりの加計呂麻島に生まれた。原作本も、敏雄との出会いをかたる、直接の原作といえる一篇(ぺん)「その夜」のほかは、島の風土、文化、島唄の魅力が、色彩感ゆたかな思い出としてつづられている。
その要素も、この映画はストーリーと不可分のものとしてもりこんでいる。奄美大島と加計呂麻島で実際に撮影された映像は、南島の魅惑があふれ、奄美にルーツをもつという主演の満島ひかりや島の子どもたちのうたう島唄も、見る者をこの世界にさそいこむ。
昭和19年も終わるころ、特攻隊が「カゲロウ島」に配置される。特攻艇で爆薬とともに敵艦につっこもうというものである。
国民学校の代用教員、大平トエ(満島)は、生徒たちと唄をうたいながら登校する森の道で、兵隊たちに出くわす。わかい隊長、朔(さく)中尉(永山絢斗)は、子どもたちにもなつかれる、やさしい雰囲気の男。
トエと朔は、島にながれる時間のようにゆっくりと感情を醸成させる。
日本の敗戦が近づき、島も空襲にさらされるなか、生と死のギリギリの状態におかれた2人の感情は、純化し、はげしく燃える。
これは、トエという女性のがわから見た愛情のものがたりであり、満島ひかりがそのすべてを演じきるすがたは、みごとである。
監督・脚本は「ゲゲゲの女房」(2010年)、「夏の終り」(13年)等のプロデューサーであり、「アレノ」(15年)で監督に進出した越川道夫。静かな熱をたたえた堂々たる演出ぶりだ。2時間35分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2017年7月21日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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