大人もスイカ割り 回転でフラフラ、掛け声に導かれ…
記者(59)が夏の浜辺でスイカ割りに興じたのは50年も前だ。最近はスポーツとして楽しむ人が増えているらしい。久しぶりに腕試しといくか。毎年、競技大会が開かれている山形県尾花沢市に向かった。
迎えてくれたのは日本すいか割り推進協会会長の三浦好昭さん(58)。尾花沢市は露地栽培スイカの有数の産地。誰よりも「尾花沢スイカ」を愛し、同市で開かれる「全日本すいか割り選手権大会」の仕掛け人だ。
スイカ割りをする場所は、大会の会場となる徳良(とくら)湖畔(こはん)。海辺だと強い日差しをまともに受けるが、木陰なので快適。還暦が近い身にとって、これは助かる。
さっそく準備開始。まず、長めのブルーシートを広げ、その上に競技用の白いマットを敷く。マットにはスタート地点やスイカを置く場所などが示されている。地元産のスイカを定位置に置く。
スイカ割りは目隠しをしてやるので、誘導するサポーターが必要。競技大会では通常、2人付くことが多い。三浦さんと、友人の倉金正悦さん(60)にお願いする。
スタート地点に立つ。スイカまでの距離は約7メートル。大会で使うスイカ割り専用棒を両手でしっかりと握る。タオルで目隠しをして準備完了だ。
「さあいきましょう。そのまま右に5回と3分の2回転してください」。三浦さんに促されて、ぐるぐると回る。方向が分からなくなる。
「こころもち右。はい、そのまま真っすぐ」。おぼつかない足取りで、スイカに向かって進む。
「はい、ストップ」。スイカの正面で歩を止め、中腰の姿勢をとる。この中腰がスイカ割りのポイント。「立ったまま大上段に振りかぶり、スイカを割ろうとすると、空振りになる」と三浦さん。棒は水平に保つ。
「さあ振って」。力いっぱい振り下ろす。だが、見事に空振り。おかしいなあ。年のせいで力が衰えているのか。
「いや逆です。力が入りすぎで、真っすぐ振り下ろせていないんです」と三浦さん。倉金さんからも「ゴルフと一緒。右手に力が入りすぎるから、左にそれるんですよ」と指摘された。
ならば再チャレンジ。スタート地点からスイカの前に進み、中腰で構える。今度は力を抜いて、エイッ。ところが、またもや空振り。
三度目の正直だ。「歩き方が良くなってます」。目隠し歩行にも慣れてきた。「構えもいい」。よし、今度はきっといけるぞ。
力まずに振り下ろすと、しっかりとした手応え。棒はスイカの中心をとらえたようだ。目隠しをはずすと、目の前には赤い果肉も鮮やかなスイカ。何ともいえない達成感がこみあげてきた。
スイカが全国に広まったのは江戸時代後期とされるが「いつからスイカ割りが始まったかは、はっきりしない」(三浦さん)。手軽で大人も子供も一緒にできることから、昭和に入って家族連れなどが海水浴場などで楽しむようになったらしい。
夏の海辺の風物詩といわれるスイカ割りだが、「かつてのように浜辺で見かけることは少なくなった」(三浦さん)。今では保育園や幼稚園、地域のイベントなどで実施されることが多くなり、介護施設などが「高齢者に昔を思い出し、元気になってもらおう」とレクリエーションとして取り入れる例も増えている。
スイカ割りについて「食べ物を粗末にするもの」などの批判もある。三浦さんは「競技大会では、通常は出荷されずに廃棄される規格外のスイカを使う。競技後にそのスイカを食べるわけで、むしろ大事にしている」と話す。
この日のスイカ割りで使ったのは、本格出荷前のハウス栽培のスイカ。それでも、割ったスイカのおいしさは格別だった。
◇ ◇ ◇
大会ルール、空振りは0点
スイカ割りの腕を競う「全日本すいか割り選手権大会」。8回目の今年は8月11日に開かれる。現在、50組の参加を予定しており、追加のエントリーを受け付けている。
競技には使用する用具やプレー内容などについてルールがある。勝敗は割ったスイカの状態を点数化して決める。「赤い果肉が見えた」(5~10点)が最高で、「空振り」(0点)が最低。「勝ったチームはスイカを食べる権利がある」「勝ち負けに関係なく、競技場所をきれいにし、ゴミは持ち帰る」などスイカ割りならではの規定もある。
もちろんスイカ割りのやり方は自由だが、イベントなどで企画する際は「このルールを使うとより楽しめる」と三浦さんは勧める。
(大橋正也)
[NIKKEIプラス1 2017年7月22日付]
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