平安貴族も戦国武将も 男はみんな「化粧好き」だった

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肌に気を配る男性が増えている。洗顔剤はもちろん、化粧水や乳液を使う人も今や珍しくない。男性向けのスキンケア商品も目立つ。男性はなぜ、美肌を目指すのだろう。

「歴史的に見て、男性は化粧好き」。化粧文化に詳しいポーラ文化研究所(東京・品川)の富沢洋子さんを訪ねると、驚く言葉が返ってきた。

「平安時代の貴族や戦国時代の武士らは、見た目をキレイにすることに必死だった」。男性の美意識の高まりは今に始まったことではない、というのが富沢さんの説だ。ただ目的は時代で違うらしい。

平安時代の貴族は権威を見せつけるため、おしろいを施した。おしろいは広く普及しておらず、高貴さの象徴だった。一方、戦国時代の武士は戦いに敗れたとき、敵に醜い姿を見せぬよう、顔を白くした。富沢さんは「男性化粧のルーツではあるが、おしゃれ目的ではなかった」と話す。

男性がスキンケアに気を配るようになったのは明治や大正に入ってから。当時の化粧品メーカー、「平尾賛平商店」は1915年、「男子に何が美容料だ!とおっしゃるな」との新聞広告を掲載。同店の女性用化粧品ブランド「レート」を、男性へ向けて売り出すのが目的だった。

レートは男性の間でも人気に。肌荒れを防ぐため、ひげそり後に乳白美容液を使う人が目立つようになった。レートを使っていることを宣伝文句にする理容店も出てきたほどだ。しかしあくまで女性向けであって、男性用に開発されたものではなかった。

男性専用で登場したのが、ウテナが57年に発売した男性クリームだ。ひげそり後の荒れた肌に潤いを与えるため、なめらかさをうたったほか、ビタミンB6を加えて皮脂を抑えるなど工夫を凝らした。

同社の片山勇樹さんは「発売は経済白書が『もはや戦後ではない』と結んだ翌年。懐に余裕ができ見た目にも気を使うようになった。男性化粧の転換点だった」とみる。

資生堂は67年、男性化粧品ブランド「MG5」を打ち出した。整髪料だけでなく、化粧水や乳液を含めた初めてのトータルブランドだ。当時の広告には「男性の時代・MG5の時代」とある。キャッチコピーの通り、資生堂の男性化粧品の売り上げは翌年、全体の1割へと大きく伸びた。

今年はMG5発売から50年、ウテナの男性クリームは60年の節目を迎えるが、どちらも今も店頭に並ぶ。長寿の理由で両社が口をそろえるのがリピーターの多さ。「男性は一度気に入ると使い続ける傾向にある」(資生堂広報)

愛されるものは変わらない一方、スキンケアの目的は時代とともに変わる。資生堂マーケティング部の田中理絵さんは「昔は見た目を清潔にして、格好よく見せることが目当てだった。今は職場に女性が増えた結果、身だしなみとしてスキンケアをする男性が多い」と指摘する。

資生堂の男性ブランド「資生堂メン」では、20代の新規ユーザーが増えているという。「肌に気を配る必要があると考える営業職の人が買い求めている」(田中さん)。ポーラのブランド「スリー」のメンズ商品は、グレーが基調のシンプルな容器を採用。ファッション性を高めた。

ポーラは1月、シワを改善する効果をうたった美容液「リンクルショットメディカルセラム」を発売。女性をターゲットにしていたが、利用者の1割は男性だ。予想以上の売れ行きに年間売り上げ予想を当初より25億円多い125億円に上方修正した。

ポーラ文化研究所の富沢さんは「今後はエイジングケアに興味を持つ男性も増える」と話す。経済産業省によると、男性の化粧品市場は10年前に比べて60億円以上伸び約216億円に。「いつも美肌でいたい」。男性がこんな意識を普通に持つ日も近そうだ。

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スパでは男性向けプラン

男性には女性以上に丁寧な説明が必要

東京・北青山のポーラの旗艦店には男性も訪れる。店内併設のスパでは昨秋、男性向けフェイシャルプランを始めた。同店の小高律子さんは「スパ利用者の2割は男性。仕事帰りの人が多い」と話す。

ポーラのブランド「スリー」のメンズ商品のパンフレットには、化粧水の役割や用法・用量などが細かく書かれている。「イラストを多用するなど、説明は女性よりも手厚くしている」(小高さん)

今回、初めて男性用の洗顔剤と化粧水を試した。市販の汎用品より皮脂が落ち、香りもよく、風が当たるとスッと抜ける。乾きも軽減され、心地よさは一日中続いた。男性の美肌意識の高まりにもなるほどうなずけた。

(田村匠)

[NIKKEIプラス1 2017年7月15日付]