プールは泳がずとも運動に 水中歩行で無理なく鍛える腰や膝の痛み軽減/つまずき・転倒を予防

NIKKEIプラス1

2017/7/21

健康づくり

PIXTA
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暑くなり、プールの季節がやってきた。泳ぐのもよいが、水中運動は体への負担が少なく、運動習慣のない人も安心して取り組める。陸上より強度のあるトレーニングも可能だという。

水中運動には、水の特長を生かした3つのメリットがある。1つは「浮力」。医学博士で国士舘大学体育学部の須藤明治教授によると「プールの水に胸までつかった状態では、浮力で体重が10分の1程度になる」。筋肉や関節への負担が軽くなり、腰や膝の痛みも軽減するため、陸上より楽に体を動かすことができる。

特に背中やお尻、太ももの裏側など普段よく使う筋肉を緩める作用が大きく、リラックス効果もあるという。一方、浮力が働く状態は「日ごろ鍛えにくいインナーマッスル(深層筋)を使った動きができるという利点もある」(須藤教授)。

2つ目は「水圧」。水中では常に圧力がかかるため、心臓に血液を戻す静脈のポンプ作用がサポートされる。1回の拍動で送り出す血液の量が増え、心拍数や血圧も下がることで、心臓への負担が軽くなる。「血流が良くなるので、むくみの解消や老廃物の除去にも効果的」(須藤教授)

3つ目の「抵抗」を利用すれば、運動強度を自分でコントロールできる。中央大学で水泳部監督を務める高橋雄介・理工学部教授は「同じ動作で単純に比較すると、陸上よりも水中の方が800倍の抵抗を受ける」と話す。

水の抵抗は動作の速度を上げるほど大きくなり、運動強度が増す。「負荷を上げたいときは速く、下げたいときはゆっくり運動するとよい」(高橋教授)

まずはウオーキングから始めてみよう。背筋を伸ばし、つま先を上に向けて足を踏み出し、かかとから着地する。指先に向かって体重を移動し、しっかりと踏み込んでから、後ろ足のつま先でプールの底を蹴るようにして体を前に押し出す。

「水中で歩くと、日ごろあまり使わない前脛骨筋(ぜんけいこつきん)が鍛えられる」と須藤教授。前脛骨筋はすねにある、足首の関節を引き上げる筋肉で、衰えるとつま先が上がりにくくなる。鍛えることでつまずきや転倒を予防できる。

「腰痛がある人は、腰への負担が少ない後ろ歩きがおすすめ」と須藤教授。進行方向に背中を向けて背筋を伸ばし、片足をまっすぐ後ろに引く。「引いた足の上にしっかりと重心を移動してから、前に残した足のつま先を上げる。足を後ろに引くときは、腰が『くの字』にならないように注意して」(高橋教授)

基本の歩き方に慣れたら、膝を直角に上げて歩いてみよう。「ももを引き上げるときに使う、インナーマッスルの大腰筋が鍛えられる」(高橋教授)。運動不足で大腰筋が弱まっていると、上体が前に傾きがちなので注意したい。

さらに運動強度を高めたいときは、歩行速度を上げたり、歩幅を広げたりしよう。合間にジャンプやスクワットを入れるのもよい。

プールに入る前後にはストレッチ体操を。入水から2分程度は体が水に慣れるのを待ち、首や手首の内側で脈拍を測る。10秒間の脈を数えて6倍すれば1分間の脈拍になる。

「水中では脈拍が低く出る。1分間に120~150拍を超えないよう気をつける。こまめな水分補給も忘れずに」(高橋教授)。25メートルを約60秒で歩くペースから始めて、体調などに合わせて負荷を調整する。

水中運動は短時間でも効果がある。水中の心地良さを感じるだけでも、日ごろの疲れが癒せるだろう。

(ライター 田村知子)

[NIKKEIプラス1 2017年7月15日付]

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