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『十年』 自由狭まる香港人の叫び

2017/7/14付 日本経済新聞 夕刊

 香港映画といえば、アクションをはじめ突出した娯楽性の追求で知られるが、この「十年」は、そうした商業映画の流れの外でつくられた自主映画。製作費は50万香港ドル(約730万円)。スターは出ていない。

東京・新宿のケイズシネマで22日公開 (C)Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited

 ところが、2015年12月に1館のミニシアターで公開されるや、連日満員。館数をふやし、600万香港ドル(約8800万円)の興行収入をあげたという。

 ヒットの理由は、見れば歴然。香港人たちのもっとも切実な心配、かたときも忘れられない感情を、こんなにもストレートに、大胆に表現した映画はなかったからだ。率直な芸術表現は、娯楽をこえるポピュラリティーをもつことがある。

 題名の「十年」とは、制作された2015年から10年のあいだに香港はどうなってしまうか、ということ。時と所をなまなましく限定した近未来SFである。

 5人の、まだ長篇デビューしていない青年監督たちが、5つの思考実験をこころみている。

 第1話だけは2017年の設定。メーデーの集会で政党の党首たちを襲撃する狂言が、中国の指令によってしくまれる。テロの脅威を政治的しめつけの口実にするためだったが……。

 第2話は、もっともSFらしい雰囲気で、香港のすべてを「標本」化しようとする男女が主人公。

 第3話は、普通話(北京語)ができないので生活が困難になっていくタクシー運転手。喜劇的タッチ。

 第4話。2025年のある早朝、英国領事館まえで焼身自殺した者がいた。だれなのか? 独立運動家の青年がその謎を追う。

 最終話には、紅衛兵の再来めいた少年団が登場、商店の表示に禁忌のワードを見つけ、責めたてる。

 どのはなしも、ディストピア。ユーモアもあるが、現在進行形で自由をせばめられている苦境の叫びが、こちらの胸にもひびく。1時間48分。

★★★★

(映画評論家 宇田川 幸洋)

[日本経済新聞夕刊2017年7月14日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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