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『彼女の人生は間違いじゃない』 等身大の被災者

2017/7/14付 日本経済新聞 夕刊

 東日本大震災の傷痕はまだ生々しい。被災者の痛みを描くのは容易でないが、福島県郡山市出身の廣木隆一監督がその痛みと正面から向き合った力作である。

東京・渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開(C)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会

 役場に勤めるみゆき(瀧内公美)は母を津波で亡くし、仮設住宅で父と2人暮らし。農業を営んでいた父は補償金をつぎ込んでパチンコ浸りだ。家族がバラバラになって幼い弟と暮らす同僚は東京の女子学生の無神経な質問に言葉を失う。原発で汚染水対策を担当する隣人は嫌がらせを受け、絶望した妻は自殺を図る。

 みゆきもまた将来の展望が開けない。恋人ともうまくつきあえなくなり、別れた。生きている実感を得られない彼女は毎週末、高速バスで上京する。渋谷のデリヘルで働くために……。

 どの被災者も震災5年後の現実に苦しんでいる。模範的な人間ではない。時に怠惰で、時に狭量で、時に身勝手だ。でも誇張や虚飾のない等身大の人間だ。

 だから、その痛みが心に迫る。被災者は特別な人間ではない。そして福島で起こったことは、この国のどこでも起こり得る。

 人は得てして紋切り型の被災者を思い浮かべ「かわいそう」「頑張れ」と言う。震災は遠い地のひと事という意識がある。被災者との距離は埋まらず、痛みは時に誇張され、時に見落とされる。この作品はそんな落とし穴から逃れている。

 廣木は娯楽作も手がける多作の人だが、3.11以降の諸作品に「感情の記録」として震災の要素を加えてきた。自ら小説を書き、映画化したこの作品はその集大成。止むにやまれぬ意志がみなぎる。瀧内が体を張った演技でそれに応える。

 虚脱感はこの国に満ちている。無人の街、壊れた原発、積み上がる除染廃棄物など、荒涼とした福島の光景は、まぎれもなく今のこの国の姿だ。この映画には等身大の被災者、そして等身大の日本が映っている。1時間59分。

★★★★

(編集委員 古賀重樹)

[日本経済新聞夕刊2017年7月14日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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