夏の快眠、鍵は「深部体温」 風呂ぬるめで体内涼しく
夏本番を前に蒸し暑い日が続き、寝苦しい夜が増える。心地よい睡眠を得るには、入眠前に体の内部の温度をうまく下げる工夫が重要だ。夏の快眠のコツを知っておこう。
睡眠とは「日中にフル活動した脳の温度を下げて休ませて、脳や筋肉の組織の疲労を回復すること」と日本睡眠環境研究機構(神奈川県横須賀市)の梶井宏修理事長は話す。
人の体は眠る用意ができると、手足の先に血液を多く送って手足から熱を逃がす。そうすることで体の内部の温度が、続いて脳の温度が下がっていく。
日中活動時の身体の中心温度(深部体温)は36~37.5度だが、眠るときは36.5度以下に下がる。ところが「日本の夏は高温多湿で、かいた汗がなかなか引かず体温も下がりにくいため、寝付きの悪さや浅い眠りを招く」と西川産業(東京・中央)のスリープマスター、杉原桃菜さんは指摘する。
夏ならではの寝苦しさを解消するには、体の熱をうまく逃がす工夫が必要だ。まずは深部体温をスムーズに下げる準備から。ランニングや筋トレなど交感神経を高める運動は、寝る3時間前には済ませておく。消化にエネルギーを使う飲食も、寝る直前は控えたい。
この時期は38.5~39度のぬるめのお風呂にゆったり入るとよい。「手足など体の末端を温めると血液の循環を促し、体からの放熱が進むので、体温が下がりやすくなる」と杉原さん。副交感神経も優位になるため、リラックスできて良い睡眠につながる。
入浴で皮膚を清潔にするのも快眠に有効だ。清潔な肌の表面に風が吹くと汗が一気に蒸発し、気化熱で体温が下がるが「脂ぎった肌だと玉のような汗が垂れて、体温調節の効率が悪くなる」(梶井理事長)。
就寝時はワッフル生地など表面に凹凸のある生地や機能性繊維を使った、汗の吸収が良く速乾性の高い素材のパジャマや寝具を使おう。暑いからと肌を露出して眠ると「汗を吸収するものがないため、肌に汗がずっと残る」と杉原さん。
夏の睡眠時も「頭寒足熱」の考え方が有効だ。暑さで寝苦しい時は頭に冷却シートを使っても良いが「逆に足元は冷やしすぎず、掛け物をしっかりと掛けると、皮膚や体の末端からの放熱をスムーズにしてくれる」(杉原さん)。
睡眠にとって望ましい室内の環境は温度が26~29度、湿度は50%以下が目安だ。近年は高気密の住宅が増え、都市部では建物の密集も進む。住環境の変化で温度や湿度が夜も下がりづらく、夏の寝苦しさを感じやすくなっている。
日本女子大学家政学部住居学科の細井昭憲准教授によると「高気密・高断熱の鉄筋コンクリート(RC)造や集合住宅は熱容量が多いため、室温は外気温から6時間ほど遅れて午後8時ごろがピークになる」。
最近多いひさしのない戸建て住宅は特に、夏至以降の時期は強い日差しで室内温度が上昇しやすい。夜に帰宅したらまず窓を開け放ち、日中に温まった床や天井、壁を冷ましてから、エアコンのスイッチを入れる。
気温だけでなく、湿度も眠りの質を左右する。室温が27度と理想的でも、湿度が60%を超えていると不快に感じやすい。「最近は除湿をせずに、温度だけを下げるエアコンも多い」と細井准教授。自宅のエアコン機種を確認しておこう。
エアコンの風は自動運転中で風量が弱めでも、約7メートル先まで届く。体に直接風が当たらないように、エアコンの吹き出し口の向きにも気をつけたい。
(ライター 巴 康子)
[NIKKEIプラス1 2017年7月8日付]
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