輝き増す新書・文庫の名著 「本当の知識」を指南

新書や文庫のロングセラー
新書や文庫のロングセラー

新書や文庫の「ロングセラー」が改めて人気を集めている。数十年間、読み継がれた人文書には今も生きる知識や教養が詰まっているようだ。版元も若い読者の掘り起こしを進める。

今年で刊行から50年。累計発行部数が約117万部にのぼる日本を代表するロングセラーが中根千枝著「タテ社会の人間関係」(講談社現代新書)だ。

続編を準備中

日本では「エンジニア」などの資格より「××社に所属する」といった「場」が優先される。入社からの年数のような集団への帰属期間が重要、など日本社会の特質をズバリ指摘した。日本人とは何かを考える本が増える今、再び注目を集める。「50年前の本に、今のウチの会社のことが書いてある」と驚くサラリーマンも多い。著者の中根氏は続編を準備中だという。

新書や文庫で人気の分野として、教養の身につけ方を指南する本があるが、中でも強いのは渡部昇一著「知的生活の方法」(講談社現代新書)と、外山滋比古著「思考の整理学」(ちくま文庫)だ。

1986年の文庫化からの累計発行部数が約220万部にのぼる「思考の整理学」は特に大学生に読まれており、昨年は東大生協で最も売れた本に。「大学やその先で求められている『学び』に対する姿勢が、少し分かった気がする」などの反響が寄せられている。

「受験の詰め込み教育に疑問を感じた人が、本当の知識とは何かを考えるために手に取っている」とちくま文庫の伊藤大五郎編集長は分析する。

旧日本軍を分析した「失敗の本質」(戸部良一ほか著、中公文庫)は、社会不安が広がるたびに「動く」本の代表格だろう。近年では東日本大震災後に売れ、最近は小池百合子東京都知事が「座右の書」と語ったことで再びヒットした。91年に出た文庫版の累計発行部数は約67万7千部だ。

安価で手軽に本を手にできる新書や文庫は日本独自の書籍の形態だ。多くの出版社が参入したのは60~70年代。それから50年ほどがたち、これらロングセラーが「スタンダード」として定着したというのが多くの編集者の意見だ。

人気作装い新たに

そんな中、中公新書は「名著、刷新!」として、長年の人気作の装いを新たにした。「詭弁(きべん)論理学」(野崎昭弘著)、「無意識の構造」(河合隼雄著)、「発想法」(川喜田二郎著)、「地政学入門」(曽村保信著)の4冊を、以前の活版印刷からデジタル時代の新しい印刷に変え、図版も作り直して4~7月に1冊ずつ出している。行間が少し広がるなど読みやすくなった。

「詭弁論理学」はすぐに重版が決まった。政治家の発言が「詭弁」と批判されることが多いからだともいわれる。地政学も今、流行の学問だ。改版した本には「今こそ知りたいことの基礎が書かれている」と中公新書の白戸直人編集部長。今後は高階秀爾著「近代絵画史」(上・下)などの刷新も予定しているという。

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「タテ社会の人間関係」中根千枝氏に聞く 今でも変わらぬ日本社会

ロンドンの大学から帰国して間もなく、総合誌「中央公論」から論文寄稿の依頼があったという。「英国で日本の農村について論文を書いたが、帰国したら日本の大学の教授会も、農村の寄り合いに似ていると気付いた」

工業化しても、生活が西洋化しても変わらない「タテ社会」が日本にはある。そう分析した論文が評判になり「タテ社会の人間関係」として1967年に書籍化された。

出版した頃は高度成長期。「対して今は、沈みゆくとき。日本は変わったように見えるが、理論ではタテ社会は生きている。恐るべきものですよ、日本のタテ社会は」

「世界的に見ると、気候の厳しい地域はタテ社会になりにくい。強い者が弱い者を保護しなければ人口が減ってしまうから。一方で温暖な日本は、弱い者が放っておかれる傾向がある」

女性初の東大教授であり日本学士院会員。本業はチベットなどを研究する社会人類学者だ。昨秋90歳になった。「今はヒマラヤの16世紀の小王国を研究している。90歳だけれど忙しいんですよ」

(編集委員 瀬崎久見子)

[日本経済新聞夕刊2017年7月3日付]

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