枝豆焼いたらホクホク濃厚 「ゆでて塩」だけじゃない
店頭に枝豆が並び始めた。加熱して塩で味付けするだけなのに、袋に記されたレシピは塩もみをする、しないをはじめ、ゆでる、電子レンジ加熱など様々。いろいろ試し、いつもの調理法を見直した。
家では塩もみをしない。ゆでてザルにあげ塩を振り、常温で冷まして食べる。塩もみは面倒なうえ、ゆでた後にも塩を振るので、塩分をとり過ぎてしまいそうだからだ。
まず、塩もみが必要か調べた。枝豆を軽く洗って大さじ1の塩を使い、ひとさやずつ丁寧に10秒ほどもむ。1袋分終えた後、残った塩をかき集めてびっくり。真っ白だった塩が黒ずんでいた。
細かい産毛やへたなどのゴミがあった。黒ずみはアクのせいかも。塩もみでこんなに取れるのかと驚いたが、さやは食べない。豆の塩気が十分かどうかが重要だ。軽く払い落としてゆで、2つ、3つパカッとサヤが開いたらザルにあげ、振り塩なしで食べた。
塩気は十分。口当たりがよく、豆の風味がある。ほどよい塩気がまろやかに豆の甘さを引き立てる。
次は調理法による違いを調べた。袋やインターネットにはゆでる以外に焼く、蒸す、レンジ加熱などがある。野菜ソムリエで枝豆調理法に詳しい小宅祐子さんに聞くと「おすすめは蒸し焼きです」。
そこで1袋の枝豆を5つの方法でいくつかサヤが開くまで加熱調理し、食べ比べた。同じ条件下にするため、味付けはなし。客観的に比較するため、枝豆で代表的な「甘み」を糖度を測り数値化した。計測機器大手、アタゴ(東京・港)のポケット糖度計PAL-1を使った。
いつもの「ゆでる」を基本に出来たてを比べると、食感や風味に個性が出た。
「おいしい」と思わず声が出たのは「焼く」だ。豆の味が濃く、香ばしさも加わって味に奥行きが出た。鉄のフライパンを使ったが、オーブントースターで焼く手もある。
豆の香りがフワッと広がり、食感はふっくら。ゆでた豆より甘みがある。小宅さんおすすめの「蒸し焼き」はホクホク。「焼く」「蒸す」ほどの個性はないが、いいとこ取りだ。レンジは55秒でポンッとはじけて完成した。食感は固めだった。
糖度は生の豆24%に対し、最も高かったのが「焼く」(27.4%)。熱で水分が蒸発したためだ。2番は「蒸し焼き」(25.6%)で、定番の「ゆでる」(20.2%)は最も甘みが減る調理法だった。
丹波地方の黒豆を研究する京都学園大学教授の深見治一さんは「蒸し焼きは少量の水で蒸すため、湯に糖分が逃げないから糖度が高くなる」と説明する。
ただ「塩を入れることで甘さは強く感じる」(深見さん)。日本野菜ソムリエ協会(東京・渋谷)によると、食塩水2%、4%、6%、8%でゆでた枝豆を食べる調査をした結果、4%が人気だった。
日々の食卓でおいしく味わうには、やはりある程度の塩気は必要のようだ。そこで、この食塩水4%の設定で「ゆでる」、同濃度の水50ミリリットルに小さじ1/3の塩を加えフライパンで調理する「蒸し焼き」、塩もみ後に「焼く」の3つの方法で調理し、家族の意見を聞いた。ちなみに4%の食塩水は、水1リットルに対し塩は大さじ2と1/4の比率で作った。
我が家の結論は、調理後すぐに食べるなら「焼く」。夫は「味が濃いのでお酒がすすむ」と手が止まらなくなった。一方、1時間ほどあけて食べると「ゆでる」が人気。4歳の娘は「これがいい」と夢中になって食べた。「焼く」は時間がたつと歯応えが強まった。蒸し焼きは「焼く」ほどではないが、固さが出た。
ただの枝豆も、調理法でこんなに風味が変わるとは。新たな発見だった。「ごま油と塩で焼くナムル風もいいですよ」と小宅さん。夕食の堂々たる一品にもなるようだ。
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江戸時代には売り歩き
大豆も枝豆も植物学上ではダイズだ。未熟な状態で収穫する枝豆は農産物の分類では野菜。豆としてのタンパク質に加え、カロテンやビタミンB群など野菜の栄養素もあり、海外でも人気が高まる。
枝豆はすでに江戸時代には庶民に愛されていた。塩ゆでして売り歩く枝豆売りがいたようだ。江戸後期の風俗を記した「守貞謾稿」(写真は国立国会図書館)によると、江戸では枝付きの「枝豆」、京都や大阪では枝から外した「さやまめ」と呼ばれた。
深見教授は「関東で一般的な黄豆に比べ、東北地方の茶豆は独特の香りがあり、カテキンが多い。京都などの黒豆は甘さとうまみがあり、アントシアニンが多い」と話す。豆や産地の違いも味わおう。
(畑中麻里)
[NIKKEIプラス1 2017年7月1日付]
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